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小説・若様と過ごした夏・25 

おばあちゃんの話は、あたしを驚愕させた。


それを思いつかなかった、鈍感なあたし。


「篠塚宗太郎正英は、双子だったのよ。」


「どうやら、長い間子ができなかった、篠塚の領主は大層喜んだそうなんだけど、当時武士の社会では双子というのはお家騒動の火種になるとして歓迎されなかったのね。」


そんな話は、どこかで聞いたことがあった。


「ご重役は、「畜生腹」として生まれて間もない、篠塚家の嫡子をどうするか何日も相談したけど、どんなに議論を尽くしても結論は出なかったみたい。


普通は、一方は死産として奥方に見せる前に殺してしまうか、遠くへ養子にやるらしいんだけど・・・。」


お産を終えたばかりの奥方は、二人の可愛い男の子を取り上げられまいとして抱えて離さなかったみたいだった。


「ずっと泣いてばかりいて、血の道の発作を起こす奥方の哀れな姿に、とうとう篠塚の領主は、二人の男の子を手元に置くことに決めたそうなの。


考えあぐねた末、出した答えはね。


戦乱の世だったから、当主の「影」としてなら役に立つこともあるだろうですって・・・」


血の道というのは、今で言う精神疾患のことだそうだ。


「奥方は、殺されてしまうよりは良いと納得したの。


それから、兄は篠塚の6代目として弟は「影」として、密かに育てられることになったそうなの。」


若様は、ちゃんとその時代に居た。


「だから、表向き一人生まれたことにして、名前は二人して「宗太郎」と呼ばれることになったの。


だけど、領主と奥方はそう呼んだけど、弟は家臣からは名もない「影様」と呼ばれたそうよ。」


おばあちゃんからそんな話を聞き、あたしの涙腺は、決壊寸前になっていた。


だって、居ながらにして存在を否定されるなんて・・・。


若様の、生まれてきた意味はなんなの?


生まれつき誰も知らない「影」だなんて、悲しすぎる・・・


当時の菩提寺の住職が、領主様から若様の行く末を相談され、覚書としてつけていたものを拝借して読ませていただいたそうだ。


きっと、あたしには漢字が難しくて読めないんだろうなと思う。


・・・城の奥に格子を入れた居室を作り、部屋に入れるのは乳母と守役、家老の数人だけ。


冷めた食事も箱膳で運ばれ、陽の差さぬ奥で乳母と二人静かにひっそりと影としての心得を説かれ、暮らす、若様。


子供らしく声を上げて走ることも、お日さまの下で風車をまわすことも、禁じられていた。


いつか本当の若様が初陣したときや、若様の命に決定的な危険が迫った時の身代わりの「影」としてだけ存在したもう一人の宗太郎。


「何も、真子が泣くことはあるまい。」


「宗ちゃん・・・」


・・・スイカの種が、ほっぺたにくっついてる・・・


「わたしは父上からも望まれて生まれたと、母上に言われたのだ。」


「今は儚き身の上なれど、兄上に有事の折には必ずお役に立つ所存であった。」


「だからわたしは、兄上のお役に立つように武芸も勉学も懸命に励んだのだ。」


「遠くから兄上の所作を真似しての。

入れ替わった武芸の時間だけは、わたしは誰からも影殿とは呼ばれなかった。」


宗太郎は、二人存在して一人は城の奥座敷に閉じ込められ、一人は落ち延びて命ながらえたのだった。



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