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小説・若様と過ごした夏・23 

「ごめんください。」


玄関で、誰かの声がする。


取り込み中のおばあちゃんの部屋が一番近いはずなので、あたしは大急ぎで玄関に向かった。


「あ・・・っ。」


小さく漏れてしまった不満の声。


「先日は、失礼しました。」


夏祭りで、絡んできた高校生の剣道部・・・?


剣道部は室内練習なのに、あなた色黒すぎでしょ・・・と、ちょっと思った。


「謝りに来た。」


手土産に、冷えた大きなスイカを持って、少年は夜に出会った人とは同一人物に見えないくらい、爽やかだった。


「あ、ありがとうございます。」

「それで、あの宗君に会いたいんだけど、ご在宅でしょうか?」


「え・・・と。居るにはいるんだけど、ちょっと待ってて下さい・・・」


様子を伺ったけど、おばあちゃんの部屋から、宗ちゃんが出てくる様子はなかった。


「ふ~ん・・・こやつ、祭りの夜に、絡んできた奴か。」


あたしの足元で、突然若様の声がした。


「見てきますっ!」

咄嗟に若様を小脇に抱え、おばあちゃんの部屋へ声をかけた。


「良いかな、宗ちゃんにお客様なんだけど。」



「大丈夫よ、若様。

あの人謝りにきたそうだから。」


「ふ~ん・・・」


「どこに行ってたの?

急に居なくなるから、あたし探したよ。」


「すまぬ。青石のところで、城の者に会おうと思ったのじゃ。」


「・・・会えなかった・・・」

若様は、ちゃんと感じていたらしかった。


慰霊の青石の周囲には、きっと若様の探している人がいるんだろうと思う。


あ、でも今は宗ちゃんが気になるので、ちょっと見てこなきゃ・・・

「篠塚は来年、受験だろ?」


「そうだけど。」


「俺の高校に来て、剣道部に入らないか?

顧問には俺から話をするから。」


「言っておきますけど、剣道って未経験者ですよ、俺。」


どうやら、先日の宗ちゃんの剣さばきに惚れこんで勧誘に来たらしかった。


「こう見えて俺、有段者で県内で誰にも一本取られたことないんだけど・・・。

未経験者だったのか・・・参ったな。」


「篠塚の王子だとか、殿様とか呼ばれてるのは満更、伊達じゃないんだな。」


宗ちゃんは、仕方なく曖昧な笑顔を浮かべていた。


・・・それを、笑ってごまかすって言うんだよ、宗ちゃん。

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