いつもお傍に 4 【最終話】
「仙道月虹さんをお願いいたします。」
「は……い?え~と……?」
舎弟の涼介は、慇懃に頭を下げた背の高い男に、思わず反射的に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。わたくしは、こういうものです。」
差し出された名刺には、仙道家筆頭執事、金剛氏郷(こんごううじさと)と書かれてあった。涼介の知らない月虹の顔を知る男だった。
「兄貴……の家の執事さん?」
年齢は40歳半ばくらいだろうか。いかつい名前に似合わぬ華美で優雅な風情を漂わせた細身の男だった。もう少し若ければ、月虹の勤める店で十分に働けるだろう。
「兄貴は……月虹さんは、今、ちょっと野暮用……用事で出かけてます。もうすぐ帰って来ると思うので、待って貰えますか?」
「お待ちいただけますか……とおっしゃって下さい。」
「お待ち……いただけますか?」
「はい。お帰りになるまで待たせていただきます。」
ふっと柔和に綻んだ笑顔は包みこむようで、初対面の涼介を安心させた。
「出かけた所というのは、雪さんの所ですか?それとも、実花さんに会いにいらっしゃったのでしょうか?最近は、スナックの紗由美さんという方とも懇意にされているようですね。」
「え~と……」
どこまで知っているのだろう。月虹の抱えている女の名前を知っている。
困ってしまった涼介が、自分の中に答えを探している時、待ち人が帰ってきた。
「金剛、久しぶりだな!」
「月虹さまのお顔を見に参りました。お元気そうで何よりです。」
「御覧の通りだ。相変わらず女の間を、ひらひらしてる。」
「月虹さまときたら、お屋敷を出て以来寄り付きもしないのですから。たまにはお顔を見せていただきませんと、大旦那様もきっとご心配されていると思います。」
「ははっ……心配しているのは金剛だろう?お爺さまはこの間、秘書課の女性たちを大勢連れて幻夜に飲みに来たからね。指名を貰って、一番高い酒を山ほど入れてもらったおかげで、今月も売り上げは楽勝だ。」
茶を運んできた涼介が思わず、げっ……と口にした。そう言えば、つい先日も断トツの売り上げで、従業員全員に焼肉をおごっていたはずだ。あれは、そういうことだったのか。
「そう言えば、接待で安酒を飲まされたと、おっしゃっていましたよ。」
「お爺様も、とんでもない無茶を言うな。ドンペリ・ゴールドが、そこいらのホストクラブに置いてあるわけないだろう?一番いいピンクをお出ししたんだけれど、どうやらお口には合わなかったみたいだね。」
「そのようです。交際費として経費計上するように言われておりましたが、そういう理由ならお断りしておきましょう。公私混同されては、困りますから。」
「……相変わらずの、堅物だな。」
「仙道家の執事はそうでなければ務まりません。それに、わたくしの名は、鉱物で一番固い金剛石でございますから。」
「違いない。」
決して軽口には見えないが、きっとこれは親しい中のこじゃれた会話なのだろうと、涼介は様子を伺っていた。「でも……仙道家……って、まさか、本当にあの仙道財閥……?」
見つめる涼介の視線に気が付いた金剛が、思わず口にした。
「……ふわふわしたものが、昔からお好きでしたね。月虹さま。今も良くお休みになれますか?」
「ああ。……どうやら、これは子供の頃に付いた癖みたいだな。独り寝は苦手だ。ひよこが傍に居ると、よく眠れるんだ。な?涼介。」
「え?……ひよこってなんっすか?」
羽交い絞めにされた涼介は、腕の中で焦って目を丸くしている。
ちらと見た懐中時計を気にして、金剛氏郷は立ち上がった。
「では、月虹さま。金剛はそろそろ失礼いたします。」
「もう帰るのか?もっとゆっくりしていけばいいのに。いつか時間を取って、お爺さまと店の方にも遊びに来てくれ。」
「金剛が大旦那様とご一緒に、ホスト遊びですか?」
破顔した金剛氏郷の、月虹を見る目は慈愛に満ちていた。
「金剛。今も、お父さま一筋か?」
「ええ……不器用なもので、ただ一度の恋に燃え尽きてしまったようです。」
「おれもだ。どうやら、一途な育ての親に影響されてしまったみたいだ。」
「金剛には、いつまでもひよこに埋もれて眠っていたお可愛らしい月虹さまです。」
「金剛のおかげで、こうしている。」
「はい。いつもお傍に。」
月虹は腕を伸ばして、大切な執事にキスを贈った。
それは、傍で見ていた涼介が思わず赤面し、顔を覆うほど濃厚なものだった。
いつもお傍に -(完)-
( *`ω´) 涼介「兄貴ったら、ひつじさんとあんなキスして……ぷんっ!」
(〃^∇^) 月虹「お?どうしたやきもちか?涼介。」
(´・ω・`) 涼介「だって、兄貴ったらすごく仲良さそうだった……」
(*⌒▽⌒*)♪月虹「あれは、親父の恋人だよ。時々、親父の代わりをしてるだけだ。」
( ゚д゚ ) 涼介「代わりって……?どゆこと?」
(〃゚∇゚〃) 月虹「あはは……いや、ちっさいことは気にするな!」←
「月虹ってば、信じられないほど尻軽いから心配だよね……よしよし。」(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「え~ん……」
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本日もお読みいただきありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪
月虹の一つのエピソードです。
次は、脳内にある涼介のエピソードを書きたいと思っています。此花咲耶
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