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夜の虹 16 

話を聞いて泣きじゃくる涼介に、月虹は胸を貸してやった。

「兄貴……、泣かないでください。ううっ……」

どこか、見覚えのある瞳だと思ったのはあの日の一途な清介のものだった。自分を好きだと言えなかった、おとなしい清介が、別れ際に自分の孤独を懸命に伝えた揶揄。
清介の方が先に旅立ってしまった。
今更ながらに、鈍感な自分に腹が立つ。目の前にいる涼介を失いたくない……と、思った。

「ぴぃぴぃ泣いてるのは、涼介だろうが。」

「可哀想な…清介さん、可哀想な、兄貴。大好きなのに、も、もう二度と逢えないなんて……」

好きだと言えなかった自分を、すっかり清介と混同してしまっているのだろう。そういえば、名前も似てるな…と、月虹は思わず手を伸ばし、えぐえぐとしゃくりあげる涼介の頭をわしわしとかき混ぜた。

「おれも馬鹿だよなぁ。失ってやっと、本当に大切なものに気が付いたんだ。おれのかけがえのない相手は、そいつだったんだよ。初恋って言うのは、よく言うが本当に報われないもんだよなぁ。おれは、涼介のことは気に入ってるし、可愛いと思ってるんだが、清介相手にもう誓っちまったんだ。」

「なに……を?」

「うん、あのな。」

月虹は色の変わりかけた写真を免許証入れから抜くと、ほら……と、涼介にみせた。今より若い華やかな美少年の制服姿の月虹がおとなしそうな黒髪の小柄な少年を、後ろから抱え込むようにして顔をくっつけあって写っていた。

「清介さんの写真?……いつも持ってるんだ。」

何気なく裏を向けた涼介は、その場で顔を覆った。
そこには誰も入ることのできない、月虹の決意があった。

沢登清介   享年17歳
仙道月虹   享年17歳

鉛筆で薄くかかれた文字。
享年……というのは、この世に生を受けて存在した年数を数える。涼介は父親が亡くなった時に、享年という文字を見た覚えがあった。

「おれはあの日、こいつと一緒に死んじまったんだ。葬儀の後、一かけらだけ骨を貰って、京都の寺で樹木葬にしてある。何時か同じ場所で一緒に眠るつもりなんだ。弁護士に頼んで遺言状も作ってある。」

「そんなことまで……」

「段取り付けてないと、いつか誰かが困るだろ?それからすぐに仙道の家も出て、鴨縞組の親父さんに世話になってるんだ。涼介、清介はお前に似てた気がするよ。大切なことは何も言えないくせに、いつだって必死で可愛いんだ。同じ過ちを繰り返さなくて良かった。」

「兄貴……おれ、何も知りませんでした。何も知らないで、兄貴を刺したりして本当にすみませんでした。こんな一途に思い合ってる人がいたなんて、おれ……おれ……う、うっ。絶対清介さんに……かなわない。」

「お前はお前だ。誰かと比べたりは出来ない。だがな、死んじまったら言いたいことも言えないだろ?だから、いつもきちんと言えって言ってるのに、お前ときたら、何も言わないでいきなりぶっすり刺しやがって。」

「……すみません。」

「いいから、もう謝るな。それにな、本気で殺ろうと思って刺したんじゃないことくらい、誰にだってわかるさ。それにおれも、散々お前に言いたいことを言えって言ったけど、清介に大事なことは言ってないんだ。」

「大事な事……?」

「おれは、あいつを何度も抱いたが、誰よりも好きだって、言葉にして言ってやってないんだ。それが唯一の心残りだな。清介が欲しかった言葉を、ちゃんと言ってやっていたらあいつは死なずにすんだんじゃないかって、今でも思う。」

「そんな……事故じゃないっすか……」

「まぁな。そんな気がするってだけだ。好きな相手が死んじまったら、綺麗な思い出しか残らないって言うが、あれは本当だな。……時折、あの澄んだ瞳に無性に会いたくなるよ。」

涼介の目に、新しい涙が盛り上がった。綺麗な思い出になって、一生思ってくれるのならそれでもいいような気もする。
涼介の心中を見透かしたように、微笑んだ月虹が言葉を継いだ。

「おれが抱いて気が済むんだったら、いつでも抱いてやる。来い、涼介。」

涼介の青い影が、揺れた。




本日もお読みいただきありがとうございました。
月虹の心の中に住んでいる清介の存在に、涼介は圧倒されています……(´・ω・`)


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