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落日の記憶 22 

相手が聞き分けるとは思わなかったが、雪華は毅然として伝えた。

「本郷様。細雪には、もうお相手が決まっておりんす。」

「だから話をしている。なぁ……徳子は元々俺のものになるはずだったんだ。少しばかり見目良いからと言って、柏宮が横合いから掻っ攫って行ったんだ。基尋は徳子に瓜二つなんだ。金ならいくらでも積んでやるから、ここに連れて来い。俺があいつを身請けする。」

「そのお申し出は、きっぱりお断りいたしんす。」

「……なんだと?」

「現で何が有ったは知りんせんが、あの子は12で禿となり、ここまで苦労してやっと這い上がって来たんでありんす。華族の家に生まれて、自分の体も独りで洗えないような子が、やっと一人前になって突出しを済ませ、今日初めて水揚げの日を迎えんした。本郷様がお連れになったあの日から、あの子は懸命に生きて来たのでありんす。あの子の4年間を台無しにするのは、わっちは兄貴分として見逃すことはできんせん。本郷様、ここは退け時と心得て、男らしゅうお帰りなんし。」

「よく言った、雪華。」

「あ……澄川さま。」

「本郷さん。聞けば亡き柏宮への意趣返しのようだが、すでにこの世にはいないものを責めても始まるまい。あなたも財も名も成した方だ。この際、細雪の事は諦めてやってはくれないか?あの子はあなたが思っているような子ではない。とても素直な良い子だよ。」

本郷の眼が既に常軌を逸した光を宿しているのに、その場に居た誰もが気付いた。

*****

無理心中を図った前日、柏宮と本郷は対面している。

仕方なく手放した所領の殆どを安価に手に入れ、蔵の所蔵品を二束三文で買いたたいた余りにあこぎな本郷の所業に、最後にやっと気付いた柏宮だった。
しかも本郷は恥知らずにも、その場に財産目録を広げ、全てを返還する代わりに奥方様と同衾したいと申し入れている。話をさせてくれという本郷の頼みを断りかねて、仕方なく柏宮は妻の徳子を客間に呼んだ。

昔と変わらぬ美貌の徳子は、今は調度も無くなった広い客間に現れると、本郷の必死の懇願に取りつくしまの無い冷ややかな目を向けた。本郷を側室腹とさげすんだ華族社会の、侮蔑と軽蔑の入り混じったまるで汚物を見るような視線だった。
それでも本郷は、必死に気力を振り絞り思いを告げた。

「俺には財産がある。着物や宝石も……あんたの好きな贅沢を、今以上にさせてやれる。この家を元通りにしてもいい。だから、一文無しになった柏宮と縁を切って、俺の所に来てくれないか?俺は、昔から……貴女が柏宮と知り合う前から徳子さんのことが好きだったんだ……」

「存じませんわ……わたくしは、お金はなくとも柏宮の方が好きですわ。」

その一言は、本郷を奈落に突き落とすのに十分だった。

「二世(にせ)を契る相手と決めておりますの。……ごきげんよう。」

優雅に会釈をして退出する憧憬の夫人に、どれほどあがいても本郷の手は届かなかった。

そして、今また、徳子の顔の細雪という名の花魁が、自分を袖にする。

「……もう、いい……。」

遠くで様子を盗み見していた誰かの悲鳴が聞こえた。




( *`ω´) 本郷 「くそ~~~」

(´・ω・`) まあ、一途っちゃ一途なんだろうけど……、この人いろいろ間違ってるよね。

本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶


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