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落日の記憶 16 

ささめと六花は、こうして無事に禿の時期を過ごしていた。
六花の働いた分は、ささめの借りた分にしてやろうと、楼主の粋な計らいで僅かではあったが少しずつ借金は減ってゆく。六花は行儀見習いということになっていた。
高級娼館花菱楼では、花魁に付いた座敷で、客がくれる駄賃だけでも相当な金額になった。雪華は中でも最上級の花魁であったから、時代は不景気でも客も金離れがよかった。

二人してもらった小さな部屋の押し入れに、空いた茶筒を隠し、内緒でお金を貯めた。

「若さま。早くお外へ戻りとうございますねぇ。」

「浅黄……ごめんね。浅黄の御両親は遠く山梨に居るから、なかなか会えないね。いつになるかなぁ……ぼくは花魁にならないといけないし、壱萬円は大金だもの。」

「自分で決めたのですから。お気になさらないでください。浅黄はずっと若さまのお傍に居たかったのです。」

「しっ……浅黄。ここでは、ささめと六花だよ。でもね、浅……六花。もしも二人して無事にここを出る事が出来たら、どんなにいいだろうねぇ。」

「いつか若さまと手をつないで、木戸をくぐります。」

「うん。来た時のようにね」

押し入れの中で抱きあって、二人は夢を語りあった。

「現に戻ったらね。ぼくはお金を貯めて、仕事を興してね、きっと浅黄を雇ってあげる。柏宮の名前が無くなってしまったから、侍従長なんてお役はもうないだろうけれど、きっと傍に居てね。」

「離れてしまっても、浅黄の父上は手紙の中で、いつも柏宮様の旦那様とお呼びです。だから浅黄も大きくなったら、若さまの事を旦那さまとお呼びいたします。」

「うん。じゃあ、ぼくもお父さまのように、浅黄の事は苗字で柳川って呼ぶよ。」

ささめは居住まいを正した。

「柳川。今日の午後は誰と会食になっている?」

「はい。旦那様。雪華太夫と料亭上総ですっぽん料理を頂くことになってます。」

「そう。それは大層、精がつくね。」

「どうしましょう……すっぽんを頂いたのちは、雪華花魁を二人がかりであんあん言わせましょうか。……くすっ。」

どちらかともなく、抱き合ってくすくすと笑った。いつかはささめは花魁となり、誰かに抱かれる運命だとわかっている。
仔犬のように秘密の隠れ場所で、時々そのまま眠ってしまっては、振袖花魁、天華に見つかった。

「そら。またこんなところで昼寝をして。お前たち、太夫が湯屋を使うんだ。早くさぼんの準備をしておいで。いいね。」

「あ~い!」

苦界の中では恵まれていると言ってもいい二人の暮らしぶりだった。




何だか、このまま時が止まってしまえばいいと思えるような……(´・ω・`)

本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶


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