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落日の記憶 15 

馴染みの澄川は、そっと雪華花魁の頬に大きな手で触れた。

「現に大事な間夫(こいびと)がありながら、情が深いね、雪華。いつでも代わりに身請けしてあげようと言っているのに諾とは言わないのだね。わたしに借りを作るのはいやかい?」

「勿体無いことと思っておりんす。なれど、そこまで主さんに甘えては、申し訳もありんせん。わっちの、突出しも水揚げも花魁道中も、みんな主さんが、たんと御金を使って下さいんした。主さんの御蔭で、雪華は大江戸一の果報者と二つ名で呼ばれておりんす。主さんはこの雪華にとっては、命の恩人、親兄弟よりも大切な御仁でござりんす。これ以上、甘えたら罰が当たりんす。」

わたしはお前に、もっと甘えて欲しいんだがね……と、澄川は笑った。どうやら澄川の前では、雪華は子供のようになってしまうらしい。

「ほら、その桜貝のような口が、毎度可愛らしいことを言う。どうしてくれようか?」

「主さん。わっちを、たんと可愛がってくんなまし……」

そう言いながらも、雪華花魁は腕を伸ばし、澄川の持ち物をやわやわと緩く扱き続けていた。再び芯を持ち頭を持ち上げ始めた雄芯に口を付けると、再び深く喉元へと送る。
花菱楼の雪華花魁は、顔(見目麗しいこと)、床(床上手)、手(客あしらいのうまさ)と、三拍子そろった稀代の花魁と言われている。

後孔で締めつけて、澄川の気をやらせた雪華の過去もまた、基尋と同じようなものだった。
資産家の父親が、戦争当時乱高下する小豆相場に手を出し、身代を持ち崩していたのだった。

「雪華。いいね、何かあったら遠慮しないでわたしを頼るんだよ。幸い、わたしには妻子もないし、面倒な親戚も居ないんだ。お前ひとり、落籍させることなど容易いんだよ。」

「あ……い……。いつか、きっとお願いいたしんす。」

初めて水揚げされた時、そう耳元で囁いた澄川は、あの日からずっと約束通り優しかった。

悩ましく蕩けた雪華花魁は、数年前と何も変わらない男に手を伸ばし、胸に縋って甘えた。
この方になら託せるかもしれない……雪華の胸に、一つ思惑が生まれた。

*****

昭和の大江戸では、昔の吉原のように、金がかかる。
禿が新造となり、初めて客を取ることを突出しと言うが、それには夜具や着物を新調しなければならない。ささめの水揚げ……初花を散らすのも、相手を吟味してやりたかった。
本郷の宮が虎視眈々と狙って居る様だったが、決して渡すまいと雪華は決心している。楼主にも頭を下げて、ささめが一人前になるまでは、借金も終わり年季はとうにあけていたが「居続け」しようと思っていた。

現の世界にいる大事な間夫(恋人)に託された、弟分のささめが初めて客を取る時は、自分の馴染み、優しい澄川に頼んでやろうと思っていた。
初めて花菱楼へ来た時に、ささめはやり手から酷い目に遭っている。初めての体験が心の傷となって、きっと頑なになったまま蕾はなかなか解れないだろうと、雪華は思いやっていた。辛い思いをした者は、皆解けるのが遅い。
優しく口を吸ってやり時間をかけて身体を解し、後孔が蕩けるのを待つのは、並大抵の相手では務まらない。いっそ、自分が金を出してささめを買い、筆下ろしの相手をしてやろうかと思っていたくらいだった。

華族という身分のささめには、本来ならば母親ほども年上の命婦が付き、優しく懐に抱いてゆっくりと若い茎をこすり、少しずつ高めてゆくはずだった。ずいぶん前に、間夫の光尋に抱かれた時、そんな話を聞いたことが有る。熟れた命婦の中は、まるで真綿に包まれたような、心持がしたよ……と。

「雪華の中は、不思議だね……熱くてうねってわたしを煽るようだ。こうしていて辛くはないか?……優しくしてやりたいが、私はこういった場所に不慣れでおそらく無骨ものだよ。こうして挿れてしまえば、ゆっくり動けばいいのかい?」

ぎち……と容は、雪華の最奥を一杯にし、雪華は返事の前に思わず喘いだ。光尋に手ほどきをした命婦は、事に及んだ時、おそらく相手が玄人ならばしてほしいことを聞けと言ったものらしい。

「主さ……ん。お好きなようになぶっておくんなまし。わっちは、お慕いしていた主さんと一つになれただけで夢のような心持でござリんす。」

「そ……う。わたしもそうだよ。愛しい雪華。いつか、わたしだけのものにする……いいね。」

「あ……あ……主さん……うれしい。」

初めて一つになる時、光尋は雪華の身体を思い、自ら白菜種を使った。加減がわからず量が過ぎて、褥が油臭くなってしまったが、誰に聞いて持参したものか雪華花魁にはそれすらも、涙がこぼれるほどうれしかった。その光尋の可愛い弟が、雪華の傍に居る。




どんな境遇であっても、頭を上げてまっすぐに生きていれば道は見えます。
ささめはどうなるかな……


本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶


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