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落日の記憶 9 

風呂の外へ放り出された浅黄と、他の男衆が揉めていた。

「いやですっ!若さまに何をする気ですか!若さまー……」

「ええっ、小雀がぴいぴいうるさいねぇ。ほら。おまえは雑用係だ。男衆の所にお行き。若さまには、「検め」が待ってるんだよ。」

「若さまーーっ!いやだ、若さまーー!」

「放して!放して!若さまーーっ!」

きつく閉じられた板戸一枚が、主従を遮っていた。
やがて、浅黄の泣き喚く声が遠くなってゆくところを見ると、どこかへ連れて行かれたのだろう。自分の事よりも、浅黄のことが気がかりだった。

「……どうか、乱暴はしないでください。浅黄は大江戸の事は何も知らないのです。後で、よく言って聞かせますから、この通りお願いいたします。」

着物を奪われて剥かれた基尋は、すのこの上にぺたりと坐ると、きちんと手をついて深々とお辞儀をした。
健気な基尋の染みひとつない裸身は、白く立ち上る湯気に包まれ薄く上気していた。
花魁志望の少年たちの検めを引き受けて、これまで数えきれないほど泣かせてきたやり手の眉が曇る。
華族や富豪の子息が落ちて来るのは珍しいことではなかったが、大抵は見苦しいほど泣き喚き、親を呪い、わが身の不運を嘆く者ばかりだった。

「お前は……どうやら並のものとは違うようだね。」

「いいえ。たんとお支度金を頂戴いたしました。今日より基尋にはもう帰る家は無いと思っただけです……すみません……。」

口ではそう言いながら、透明な滴が知らず転がってゆく。ごしごしと涙を拭った。

「お前のご実家は、おそらく本郷の宮さまに乗っ取られるんだ。ご時世とはいえ哀れなこったなぁ。」

やり手は話をしながら、そこにあった小さな壷に指を入れ何やら掬い取った。哀れな皇子を傷つけないよう後孔に油を塗ってやるつもりだった。

「お言葉を返すようですけれど、本郷の伯父様は良い方です。お兄さまの病院代が大変だろうとおっしゃって蔵の骨董を買って下すったし、ここも伯父様が御口利きして下すったのです。」

「本郷の宮様が良い人ねぇ……華族様ってのは、これまで誰も疑わずに過ごして来たんだろうなぁ。お前、自分の値段を知っているかい?」

「叔父様は破格だとおっしゃって、五千円下さいました。それに、基尋にはこれから簪が必要になるから、大江戸に行く前にお買いなさいと言って別に50円下さいました。それで、お母さまのお正月の晴れ着を買いました。」

やり手は話をやめた。これ以上会話を続けたら、同情してしまいそうで不安になる。
本郷宮に花菱楼が手渡した金は、一万円という値段だったと聞いている。これまでに柏宮は花菱楼に何代にもわたって金を落としてきた上得意だったから、楼主がぽんと札束を積み上げたという話だ。上前をはねて五千円という半金が本郷宮の懐に入ったことになる。

やり手は基尋を転がすと、膝を抱えてすのこの上に横になりなと告げた。

「此処にでしょうか……?」

「そうだ。早くしな。」

何か敷くものをくださいとは言えなかった。




(´・ω・`) 基尋「こ……こわいです……」

[壁]ω・) 「じいちゃん、がんばれ~」←


本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
試練です~
昨日は、下書きのままだったのを、10時まで気がつきませんでした。
覗いてくださった方、すまぬ~(´・ω・`) あんぽんたん~……


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