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落日の記憶 2 

かつて、華族と言う階層が有った。

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明治新政府が、公家、藩主諸侯、そして自分たちが特権を得る為に新しく作った華族制度は、大戦後GHQによって廃止され、それ以来華族階級の生活は一変することになる。
平安時代から続く由緒正しき高貴な柏宮子爵家も例外ではなかった。
50人もいた使用人も財政難で今や櫛の歯を抜くようにすっかり減っている。

10万円以上(今の価値だと約5000万円以上)の財産を保有する華族に課せられた財産税は恐ろしいほど多額で、それまでの何不自由ない生活を根底から一変させた。
労働とは無縁だった柏宮家も、有史以来、初めて自らの才覚で「生活」することを知る。

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「若さま~!」

柏宮家に長く仕える執事、柳川の息子が、バルダリウム(小さな温室)に居る主人に声を掛けた。柏宮家次男、基尋よりも二歳年少で基尋の側小姓を務めている。名を浅黄という。

「若さま。旦那さまがお呼びです。」

「ありがと、浅黄(あさぎ)。ねぇ、君は父上達と一緒に、秩父の田舎に引っ越すのではなかったの?」

浅黄と呼ばれた少年は、きゅっと唇を噛んで怒ったように年若い主人を見つめた。温室で咲いた大形の白百合の花を抱えていた。

「……浅黄はどこにも行きません。父上と別れても、終生、若さまの元に居ります。」

「そう……?でももう、お父さまは、浅黄にお給金も出せなくなると思うの。金庫が空になってしまったら、柏宮家も他所と同じように屋敷を売るしかないかもしれないね。ぼくも浅黄や命婦(女中)の手を借りずに、自分の事は何でもできるようにならないといけないって思ってるんだよ。」

若さまと呼ばれた柏宮基尋はふふっと笑った。その横顔は、あくまでも清浄で凛として抱えた白百合のように美しかった。既に吹き荒れる嵐に諦めの色を浮かべているようだと、柳川浅黄は思う。
大好きな主人の身に、これからどれほどの災禍が襲い来るのかと想像して、思わず浅黄は身震いした。

「若さま。浅黄は何が有っても若さまのお傍に居ります。決してお傍を離れません。どこまでも、ずっとお連れ下さい。」

「ありがと、浅黄。ずっと一緒に居てね。このお花を、応接間の花瓶に活けておいてくれる?おたあさま(お母さま)がお好きだから。」

「かしこまりました。」

一抱えもある花を浅黄に預け、基尋は軽やかに父の元へと駆けて行った。





本日もお読みいただき、ありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

第二次世界大戦が終わったのち、華族制度は廃止され、その多くの財産に恐ろしい額の税金がかけられました。
90パーセント以上課税された皇族もいて、才覚のない華族の場合、生活は財産の切り売りが主だったようです。
どうやら、基尋じいちゃんのおうちも、これから転落していくみたいです。大変ね~(´・ω・`) ←犯人


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