FC2ブログ

小説・若様と過ごした夏・9 

軽い脳震盪だったあたしは、すぐに帰宅を許された。


大きなこぶはできたけど、宗ちゃんが途中で草むらの方に押し倒してくれたので、命拾いしたらしかった。


確かに、あのまま石段を転がっていたら、わたしもご先祖様と同じ場所に、丁重に葬られていたかも知れない。


「ありがとね、宗ちゃん。」


「礼には及ばぬ。」


がっくり・・・


ちびの宗太郎が憑いてた。


「あんたじゃないって。」


もう、面倒くさいので宗ちゃんと、ちび宗ちゃんって分けるね。


不思議なのは、おばあちゃんと佳奈叔母さんの態度。


孫の言動ががおかしくなっても動じないし、息子が時代劇オタクみたくなっても平気みたい。


どういうことよ。

家に戻ったあたしは、宗ちゃんに霊が憑いててもみんなが平気なのが不思議で、おばあちゃんに聞いてみた。


「あら。


だっておばあちゃんは、娘の頃から市川雷蔵が大好きだったんだよ。」


い・・・いちかわ・・・?


だ、誰っすか・・・?


「真子ちゃん、これこれ。」


「うふふ♪」


襖をがらりと開けたら、押入れの下段にdvd「市川雷蔵全仕事全集」が並んでいた。


そっか~・・・って、納得してどうする!


確かに涼しげな目元は、似てなくも無いけど・・・?


「ほら、この刺青判官ってね、遠山の金さんの若い頃の話なんだけどちょっと似てるでしょう?宗に。」


「本当だ・・・」


誰にも言ったことないけど、背中の桜吹雪がお見通しでえっ!て、もろ肌脱いでる英樹のテレビの再(?)放送は、うんと昔あたしのお気に入りだった。


悪人をバッタバッタとやっつける、勧善懲悪の世界は気持ちよかった。


一人っ子のお守は、大抵テレビがするのだ。


おばあちゃん、もしかして孫に憧れの人を重ねちゃってる?


「うふふ♪」

・・・照れるおばあちゃんが、やたらと可愛く見えた。


「で、佳奈叔母さんは、何で平気なの?」


・・・言ったあたしは、自分の浅はかさに嫌になった。


そういえば、つい最近、電話口でママが言ってた。


「最近の時代劇って、綺麗なだけで艶のある役者さんがいないのよね~。」


「そうそう、でもね、あの人は思わぬひろい者よ。


踊って歌ってるだけあって殺陣に切れがあるじゃない?」


あの時の電話の相手は、確か佳奈叔母さんだったはずだ。


ご先祖様が城持ち大名だなんていうと、子孫はお侍さんにも違和感もたないものなのね、きっと。


親族みんながこんな風じゃ、ちび宗ちゃんに驚かないのも判る気がする~・・・と頭の隅っこで、バラエティの詩吟師範代が吟じた。
関連記事

0 Comments

Leave a comment