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平成大江戸花魁物語 8 

六花の見た所、娼館・花菱楼は、働く者にとっては、かなり自由な女郎屋のようである。
花菱楼がよそと違うのは、高級娼館ゆえに、下っ端の娼妓にも客を選ぶ権利があるところにあった。
広い大江戸の中にいくつもある廓には、項目ごとに順位がつけられ、常に最高位の花菱楼では気にそまない床入りの無理強いは、誰もしない。

祖父が自分を預けた理由がわかるような気がしたが、ここに来る前に、密かにパソコンで調べたこととかなり違うので、六花は戸惑っていた。
まず、花菱楼には苦界という悲惨な言葉が当てはまらない。
花魁のその殆どに借金はなく、最高位の雪華大夫などは、花菱楼の楼主が頭を下げて籍を置いてもらっているくらいだ。何しろ雪華太夫が客を取れば、恐ろしい額の金銭が動き、その上、花菱楼には箔がつく。
気が向けば客を取るが、そうでないときは何か月も待ちぼうけを食わせたりもする気ままな花魁暮らしだった。

ただ、花菱楼と言えど例外はある。
行儀見習いの六花と違い、初雪のように最初に多額の借金をこしらえ、見習い禿として入る者は、昔ながらの年季奉公という形を取っていた。
約束としては一定の年限を働くか、花魁になるまでにつぎ込まれた教育費、衣装代などの金額を返却できれば解放されることになっている。
そういう約束事がなければ、逃げ出す禿は必ずいたし、色事のイロハを教えるのに時間は必要だった。
精通を迎える前の無垢な禿たちに、手取り足取り、微に入り細に入り花魁の手管を修めるには、「して」、「見せて」、「聞かせて」やるのは「兄さん」と呼ばれる先輩花魁の役目だった。

*****

近頃、禿の初雪の様子がおかしいと気が付いたのは、共に居る時間の長い六花だけではない。
間もなく顔見せの振袖新造、天華花魁も気づいていた。

天華は雪華花魁の秘蔵の新造として、同じような手練手管を使うらしい、と店出し前から既に噂になっていた。初花の相手には、相当のものが選ばれるだろうと噂されている。

「ちょいと雪華兄さん。あれをご覧くんなまし。」

「どうかしたんで、ありんすかぇ?」

花菱楼の花魁たちは、元来自由な物言いをする。
「和」ものの最高位として雪華太夫は、外国の客人の為にあえて過去の花魁言葉を覚え、自在に使った。雪華花魁の下の天華もそれにならった。

「ほら、あそこで初雪がぼんやりしているでありんしょう?」

「どうやら、心ここにあらずでありんすぇ?」

お気に入りのお猿のぬいぐるみを足の間に挟んで、禿の初雪は、空を見上げて大きなため息を吐いていた。天華が花魁になったのち、初雪も振袖新造として、間もなく子供の禿から客を取る立場へと格上げになるのは決まっていた。
だが、まだ初雪の耳にはまだ誰も入れていない。ため息の理由がわからなかった。

「六花や。お前、初雪のふさぎの理由を何か聞いているかい?」

「いいえ。何も……。ただ、ああして最近、沈んでいるのは確かです。何か、夜もあまり眠れないみたいです。」

「そうかい。一体どうしたんだろうねぇ。」

見上げると、丸い可愛らしい頬を、浮き上がった水滴がころころと転がってゆくのが見えた。
手の甲でごしごしとこすって、紅い目のまま雪華太夫を呼びに来ることもあった。

「雪華兄さん。お大切なお客様がいらっしゃいんした。」

「そうでありんすか。すぐに行きんす。」

そんな時、雪華太夫は初雪の為に、わざと市井で使っていた言葉を使う。

「うさぎさんのお目々になって、どうしたね?初雪、涙が出るような悲しい目にあったのかい?兄さんになんでもお言い。」

「あい……。いいえ、なんでもありんせん……。」

ふるふると首を振る禿の花簪(かんざし)が、涙を振るように光を弾き銀のビラビラが揺れた。
そして……数日後、大事件は起こる。





Σ( ̄口 ̄*)大事件って……?

(〃゚∇゚〃) 明日です~。

■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ

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昨日は、うっかり下書きにしたままでした。九時に来てくださった方、ごめんね。(´・ω・`) 此花咲耶



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