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平成大江戸花魁物語 6 

六花が行儀見習いで入った娼館・花菱楼は、実に変わった場所だった。

男相手の岡場所ならば、江戸の昔、歌舞伎俳優崩れが春をひさぐ陰間茶屋が有名だが、花菱楼のシステムはどちらかというと江戸吉原の物に酷似している。

花魁と呼ばれる美しい男たちが、秘密裏に現実世界とかけ離れた一つの世界を作っていた。彼らは古来から伝わる手練手管を守り、床入りした相手にだけ儀式のように、その技を披露する。
その相手も俗世に居れば、なかなか顔を見るのも叶わぬような有名な大物ばかりだ。

「禿とばかり遊んでないで、はい、雪華花魁はお仕事、お仕事。」

「……天華ってば、まるでやり手婆みたいだよ。素質あるなぁ。」

「褒め言葉と取っておきましょう。」

*****

次は花魁になるはずの振袖新造の天華は、雪華大夫に執心している石油王に、いたく同情しているようだった。
何度つれなくされても健気に通って来るので、代わりに座敷に上がるうちに、どうやらほだされたらしい。

雪華花魁は、衣擦れの音をさせながらしずしずと上座に座り、打掛を滑らせた。
錦糸の縫い取りは凛とした燕子花(かきつばた)で、雪華大夫に似合いの文様が絢爛とした打掛に踊っている。
禿の六花は、雪華の傍に静かに控えて様子を見つめていた。
一挙手一投足が流れるように美しい花魁は、様式美の中に在った。

尾形光琳の有名な屏風絵の渦巻紋をそのまま打掛に移し、中庭に爛漫と咲き乱れる季節の花々を流れるように配置してある。調度と自分の着物が溶けあうように計算されていた。

「さ。顔合わせと参りましょうか。」

案内役のやり手が声を掛ける。

外国の客人は雪華大夫の姿を見るなり、感嘆のため息を吐き、思わずにじり寄った。
とんと、手にした朱塗りの長尺煙管(きせる)を煙草盆に置くと、その音にはっとした客人は我に返り腰を下ろした。
雪華太夫は下座に座る客人に、そっと口を付けた煙管を押してよこした。新造として傍に控える天華太夫は、花魁の寛大な所作に舌を巻く。
初回の顔合わせは客とは口も利かず品定めだけ、二度目はほんの少し距離が縮まるだけのはずが、雪華は視線を絡め、蕩ける笑みさえ浮かべてよこした。

「主さま。美しいお花をありがとうございんす。」

「花なぞ……お前の前では恥じ入って花弁を落としそうだ。」

煙管を押し抱いて、客は感激の面持ちだった。
粋も判らぬ六花は思う。

「あんな長い煙管貰って何が嬉しいんだろう。背中かくくらいしか、使い道なくね?」

「あ~あ。外人さん、とろけちゃってるじゃん。確かに、雪華兄さんの綺麗さったら……惚れるよなぁ……」

まだまだ何もわからぬ見習い禿だった。
もっと驚いた事に、舞い上がってしまった中近東の客人は、座敷の帰り道、検番に向かうと、太夫を手に入れる為、雪華と同じ重さの金塊をその場に積んだらしい。

「花菱楼の雪華さんを、落籍させていただきたい。国へ連れてゆきたいのです。これは手付です。」

ほぼ一億円ということだったが、その日、客人が手に入れたモノは、雪華花魁の輝く真珠の肌ではなく自分の名前の入った膳と箸のみだった。
それでも、これでやっと雪華太夫と「馴染み」になったと、客人は上機嫌で帰ってゆく。

「雪華兄さん、まじ、すげぇ~」

さすがに六花にも雪華のすごさがほんの少しわかったような気がする。
それほどまでして手に入れたいと思わせる、色香などは今一つ理解できないが、雪華の誰にも平等な欲の無い心は本物だと思う。

「じいちゃんがいつも言ってたようなぁ……。職業の貴賤で人の値打ちは付けられない。真実は見えないところにこそあるんだって。見抜けるように成れって言われたけど、おれ、まだまだだなぁ。」

雪華太夫を正式に落籍したいと、その日のうちに花菱楼に検番から正式な申し込みがあった。





検番とは、大江戸の遊里で、花魁など廓に籍を置くものを登録した場所として書いています。
花魁との取り次ぎや玉代(遊んだお金)の計算する事務所のような場所でもあります。
……設定は雰囲気で。(`・ω・´)

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つか……このお話、絶対、時代物よねぇ……(´・ω・`) ← 今更。


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