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平成大江戸花魁物語 3 

ざわめきと鼻腔に微かに香る甘い匂い……

「うわ……」

目隠しを取ると、光の洪水が網膜を襲った。

太陽が無いはずの広い地下の街には、紅い格子が前面に施された家々が立ち並び、軒先には丸い提灯を模した人工の燈が煌々と灯っていた。

「えと……楼……菱、花?」

「花菱楼です。この町では文字は右から読むんですよ。東呉さまは、こちらで学んでいただきます。」

「学ぶって……学校の勉強じゃ足りないの?おれ、そこそこ頑張ってると思うんだけど。」

「そうですねぇ。ある意味、人の上に立つ方々のお勉強の場ですから、帝王学とでもお思いになってお励み下さい。では、柳川は大旦那さまのお手紙とお土産を楼主にお届けしてまいりますので、こちらでしばらくお待ちになってください。」

「うん……。」

柳川の姿が消えると、東呉は心細くて泣きそうになった。
本当に知り合いの一人もいないこの場所に、置いてゆかれるのだろうか。裏口に生け垣が有り、柳川が消えて行った辺りをぼんやりと見つめていた。

「おや……。」

ぼんやりと佇んでいる東呉の頭上から、何の花弁か薄桃色の一片が舞い降りてきたのに気付いて頭を巡らせば、花菱楼の二階から声が降ってきた。

「坊や。新参かえ?」

東呉が驚いて目を瞠ったのも無理はない。

見たこともない白い水化粧の人が、しなを作ってひらひらと手を振った。男でも女でもない何か違うしなやかな生き物……のような気がする。

「……あなたは?」

「あい。あちきは、花菱楼の雪華でありんすぇ。」

「雪華さん……って、本当にいたんだ。」

勿論、祖父の話の雪華と、同一人物のわけなどないだろうが、東呉の視線はひたと据えられたまま動かなかった。まだこしらえ途中の花魁は、小首を傾けて微笑むと楼の中へと引っ込んだ。

「なんて綺麗なんだろう……」

思わず粟立った二の腕をごしごしとこすった。花魁など、社会科の本に載っている浮世絵の姿絵でしか見たことはなかったが、現実の艶やかさに圧倒されていた。

「東呉さん。楼主に話が出来ましたから、こちらからお入りください。」

「東呉さん?」

ぼうっと二階を見上げたままの東呉が、はっと我に返る。

「いいですか?今日からあなたの名前は禿の六花です。」

「かむろのりっか……?」

「ええ。おそらく楼主からも話があると思いますが、六花というのは雪の結晶の別名です。雪にちなんだ名前が付くのが、花菱楼の決め事です。他の方もすべて、そうです。」

「そうなんだ。何か、不安だなぁ。行儀見習いの間、柳川さんは、ずっと傍に居てくれるの?」

「いいえ。柳川が仕えるのは、後にも先にも大旦那さまお一人だけですから、そうは参りません。ここを出てゆくときには、お迎えに参りますから、それまでお励み下さい。」

「後、大事な決め事が一つ。ここを抜け出したりなさると、足抜けと言って酷い折檻を受けますから、決してそれだけはなさらないように。おわかりですね。外部との接触もここで断っていただきます。」

「……ん。何とか頑張ってみる。」

「大丈夫ですよ。皆通る道です。」

そんなわけあるか~。

そんな優しい嘘を言われても、心細さに涙がにじむ。経験はなくても普通のバイト感覚で居ればいいだろうと思っていたが、なかなかそんな気持ちになれない。
携帯を渡せば、丸裸になったような気がした。
昨日までのサッカーボールを蹴っていた放課後は終わった。





見たこともない美しい花魁の名は雪華太夫と言います。

(´・ω・`) 東吾「柳川さんが、おれを置いて帰っちゃう……」

(`・ω・´) 柳川 「わたくしは大旦那さまだけにお仕えするのです。」←何げにあやしい……


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美貌の雪華さん……挿絵描く自信ないぞ~


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