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流れる雲の果て……11 

拍手は鳴りやまなかった。

醍醐は大二郎の演じた梅川を見て何かあったに違いないと踏んだが、良い方に回っているのなら大二郎のすることに口を出す気はなかった。

「うっ……うっ。」

大二郎は役にシンクロし過ぎて、幕が下りた後、涙が止まらなくなっている。

「お師匠さん。何で二人は生きようと思わなかったのかな……。」

「そうだなぁ。時代が違うと言えばそれまでだろうが、恋を全うするのに他に方法がなかったんだろうなぁ。お前は、二人に生きて欲しかったか?」

「うん。生きて欲しかった。そしてね、悪いことをしたのなら死んでお詫びをするのではなくてね、お詫びをして二人で生きることを考えてほしかった。」

大二郎に何が有ったのかわからないが、確かに踊りにはっきりとわかる艶が出ていた。踊りの艶は決して習っても出て来るものではない。これまでは、それらしく醍醐の所作をなぞっていたにすぎなかった。

「だれかを好きになったか?大二郎。今日の踊りの出来は良かったぞ。色っぽくてぞくぞくした。」

「お師匠さん。おれ……ね、好きな人ができたんだ。でも、どれだけ好きでも、相手には好きな人が居てね……。とても優しい人なんだけど、おれはその人の心には住めないの。」

「そうか。お前の忠兵衛は、余所を向いているのか。」

「うん……。おれには……三途の川の渡し場で待っててくれる忠兵衛が居ない……。おれの気持ちは、一生届かないんだ。梅川は好きな人が一緒に逝こうって言ってくれて、嬉しかっただろうな。踊っている時、忠兵衛が好きな人に思えて、手を放したくなくて、おれは一生懸命だった。」

「大二郎。今生で報われなかったが、梅川は忠兵衛と出会わなかった方が良かったと思ったかな?」

「ううん……。一生に一度の本気の恋だもの。出会ったのは、きっと運命だったんだよ。」

「そうだな。好きにならなければよかったと思うような恋は、本物じゃない。おれは失うのが怖いからって、初手から逃げるような男に育てたつもりはないぞ。」

醍醐の眼差しは優しかった。

「いいか?おれはお前の母親、楓と本気の恋をした。おれが惚れた女が命がけで産んだのがおまえだ。おまえの中には楓の命も宿っている。だからな、天地がひっくり返っても、世間さまが謗って(そしって)も、おれだけはおまえの味方だ。帰ってくる場所があるってことだけは覚えておきな。決して一人じゃないぜ。」

「お師匠さん……。」

「芝居に艶が出りゃ、教えることはもうない。そろそろおれも、親父に戻ってもいいころだ。これまで良く頑張って来たな。」

「それって……柏木醍醐をお父さん……?……って呼んでもいいってこと……?」

「ああ。」

くしゃと大二郎の顔が歪んだ。

「あはは……。うれしい。もっともっと先だと思ってた。」

ぽろぽろと、梅川は泣いた。忠兵衛の胸で子供になって泣いた。





良かったね……(´・ω・`)

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