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禎克君の恋人 20 

観客を見送る大二郎を遠目に眺めて、禎克はどこか誇らしいような心持ちになっていた。
誰もが大二郎の一挙手一投足に注視し、微笑を浮かべて流される視線に狂喜していた。

大二郎の似顔絵を染め抜いた手拭いをわたし、一人一人に声を掛ける大衆演劇と呼ばれる彼らの対応は、観客にとても優しい。扮装のまま最後の一人に別れを告げると、やっと彼らの当日の公演は終了となる。


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*****

「さあちゃん。ごめんね、長いこと待たせちゃった。」

初座長の大仕事を終えた大二郎がすり寄って来ると、禎克の手を曳いた。

「ううん。すごく楽しかったよ。お見送りも変わらないね。お客さんと近くていいなって思うよ。大二郎くんも、すごく綺麗だったし、周囲のファンのおばさんたちが絶賛して褒めてた。何か、知り合いなんですって自慢したくなったよ。」

「そう?うれしいなぁ……。」

「大二郎くんが目線を合わせて握手した、車椅子の人いただろ?大ちゃんに会えてうれしいって、感動して泣いてたじゃないか。ああいうふれあいって、優しくていいなぁって思ったよ。あの人にとっては、この先もずっと忘れない大切な思い出になっただろうね。」

「ああ……あの人ね。ずっとおれのファンだって言ってくれたよ。身体がどんどん動かなくなる病気だけど、おれが頑張ってるの見てると勇気もらえるって。身体が動くうちに会いたかったって。」

「そっか。」

「だから、おれも頑張るから、あなたも負けないでっ言ったんだ。また、会いに来てねって言ったよ。お客さま在っての、稼業だもの。お客さまは、大切にしなきゃ……それ、なぁに?」

大二郎は禎克の持った大きな荷物を認めた。

「あ、これは明日からの荷物と、こっちはお母さんから一緒に食べなさいって、お弁当預かって来たんだ。有り合わせなんだけど夕飯詰めて来たから……食べよ?」

「やった~。」

大二郎は破顔し、そのまま自室に引き上げると座員たちに告げに走った。

「おれ、さあちゃんとご飯食べるから、今日はこれで上がらせてくれるかな。無理言って悪いけど、今日は舞台が成功したから、我まま言わせて。後の事、よろしくお願いします。」

座員たちもにこにこと応じてくれた。どの顔にも、大仕事を終えた充実感と安堵が滲む。

「部屋にも小さいけどお風呂はあるし、行こ。さあちゃん。いっぱい話しよ。」

化粧の残った顔で、部屋着の大二郎は袖を巻き取り、まるで道行のように禎克の手を曳いた。
甘ったるい白粉の匂いが、鼻をくすぐった。




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