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だいじろうくんの事情 4 

羽鳥は、そんな命がけの思いには叶わないと思ったが、託された思いに応えるように必死に一座を盛り立てた。子育てなど関わったこともなかったが、夜中に起きてミルクを作り、周囲の力も借りて懸命に大二郎を育てた。

最愛の妻を失って、落ち込む醍醐を叱咤し、決して舞台に穴をあけさせなかった。
だからこそ劇団醍醐は持ちこたえたし、今があると醍醐自身も思っている。
いつも影のように寄り添って、羽鳥はずっと傍に居た。

*****

「醍醐さん。大二郎は短い間でも、幼稚園に通わせますか?またすぐに、九州に行くことになりますけど、どうします?」

「そうだな。近くに確か、温泉街の仲居の子供が通う幼稚園があったはずだな。大二郎を連れて、散歩がてら覗いてくらぁ。」

「ああ、そういえば、観光協会の会長に挨拶に行ったとき、そんな話を聞きました。こちらでももう一度、聞いておきます。私立でしたら、多少の無理は聞いてくれるでしょうから、お願いしてみます。」

「頼む。」

醍醐が立ち上がって上着を拾っただけなのに、羽鳥は思わず見惚れてしまう。
何気ない普段の立ち居振る舞い居にさえ、零れる華があった。既にテレビや映画で名が売れて、地方回りは止めたらどうかという声もあったが、醍醐は自分の原点でもある舞台が好きだという。
愛する女と縁を結び、子供をもうけたのも小さな一座あってのことだ。何より、醍醐の流す一瞥(いちべつ)の視線を、傍で見たいと多くの客が望んだ。

*****

大二郎は、それほど広くはない舞台の片隅で、ただ一人まだ熱心に稽古をしていた。
お師匠さんのいう事は、もっともだと思う。舞台に関係の無い気持ちを持って板に乗るのは、お金を払って見に来てくださるお客さまに失礼だから。
叱られたのも、きちんと踊れない自分が悪いと分かっていた。
左足を引いて軸にし、くるりと回りながら三枚の重なる花笠を斜め上に突きだすと、綺麗に滑って開いてくれた。
何度も繰り返して覚えた、藤娘の踊りの形だった。

「できた~。」

やっと納得のできる踊りが出来て、汗ばんだ顔にタオルを当てた。
鏡前に張り付き、じっくりと顔を眺めてみる。

「あぁ、もう、治っちゃったなぁ~……。」

女の子みたいな可愛い男の子が、泣きながらばんばん殴った痕は、とうの昔に綺麗になっているのがほんの少し、寂しかった。役者の子なら、顔に傷が残らなくて良かったと喜ぶべきなんだろうが、さあちゃんとのつながりが薄くなった気がする。
このままドーランを塗って羽二重を付ければ、そこにいるのは柏木醍醐劇団の天才子役、柏木大二郎だ。
既に何となく、別れた禎克とは、住む世界が違うと肌で感じている大二郎だった。

「さあちゃん……、どうしてるかなぁ。」

さよならと告げられなかったのが、今も心残りだった。





それぞれいろいろな思いを抱えて生きています。
託された羽鳥。
劇団を抱えた醍醐。
忘れない思いを、今も時折思い出す大二郎。

(´・ω・`) 元気出してね、大二郎くん。いつか会えるからね。


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    此花咲耶


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