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だいじろうくんの事情 3 

救急車で運ばれた母親は、医師が思わず息をのんだほど、ひどい状態だった。
浮腫が酷く足がぱんぱんに腫れていたのを、緩いジャージで隠していたようだ。
救急病院の当番産科医は顔をしかめ、母体の安全は保障しかねます、直ぐに、お身内を呼んでくださいと告げた。

「こんなになるまで、ほおっておくなんて……。一体、ご家族はどうしていたんです?」

羽鳥は言葉を無くし、横たわる醍醐の妻に縋った。毎月、興行する場所が変わる暮らしの中で、一度行ったきり病院へは足をむけていなかった。

「姐さん……。もうすぐ醍醐さんが来ますから。頑張ってください。姐さん……生まれる子を母無し児にしちゃいけません。生きなきゃいけませんよ。しっかりして。」

微弱陣痛で長く苦しんだ母親は、朦朧と消えそうな意識の中で羽鳥の手を握り締め、夫と子供の行く末を託した。

「ねぇ……羽鳥ちゃん……。わたし、醍醐の女房でいられて、本当に幸せだったの。大好きな醍醐の……綺麗な姿がずっと好きで……一番のファンで、押しかけ女房なのよ……羽鳥ちゃんと一緒ね。あなたも醍醐が好きでしょう……?」

「俺は……姐さんもいる劇団醍醐が好きなんです。姐さんも生まれてくる赤ん坊も、誰も欠けちゃいけません。皆ひっくるめて、劇団醍醐なんです。姐さん、しっかりしないと、俺、醍醐さんに言い寄っちまいますよ。だから、しっかりして。姐さんがいなきゃ、醍醐さんが駄目になっちまいます。」

「羽鳥ちゃん……なら、いいわ……。醍醐をあげる。でも……生まれてくる子供も、ちゃんと愛してやって……ね、羽鳥ちゃ……。」

「姐さんっ!姐さんっ!駄目だ、姐さんっ!しっかりして!先生っ、姐さんが……。」

必死にナースコールのボタンを押し続け、半狂乱になって叫ぶ羽鳥の頬を誰かがぱんと張った。

「静かにしないか。病院だろうが。」

「醍醐さん……。姐さんが……。姐さんが……ううっ……。」

*****

醍醐は既に担当医に話を聞き、容体を理解していた。
舞台のこしらえのまま駆け付けた醍醐は、白い舞台化粧のまま、青ざめた愛する妻にそっと額を寄せた。

「……醍醐、ごめんね。」

「謝るのはおれの方だ。舞台のことばっかりで、お前を労わってやらなかった。すまなかったな。」

「楓、おまえはこの柏木醍醐が、ただ一人女房と認めた女だ。きっと、帰って来い。いいな。」

「醍醐……。」

ばたばたと慌ただしく帝王切開をするために、妻はストレッチャーに乗せられた。。
運ばれてゆく大二郎の母親は、腕を伸ばすと、最愛の醍醐の頭を抱いた。

「大好きよ……。綺麗な醍醐……。」

「よ…っ、…柏木……醍醐、日本い……ち……」

それが、柏木醍醐の恋女房の最期の言葉だった。





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大二郎くんのお母さんは、お産の数日後、儚くなりました。
詳しくは書かないのですが、大二郎くんがしっかりしているのにはこんな理由もあるのです。

書いてて、悲しくなってきた……。←あんぽんたん~……(´;ω;`)     此花咲耶


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