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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・15 

その夜、わたしは三里藩で眠る母上に向かって祈った。


これで終に、わたしの死に場所ができました。

母上、貴久は直にお側に参ります。

ですから、お願いです。

どうか、どうか大輔をお守り下さい。

大輔は生きて国許に帰さなければならぬのです。



総攻めで、板倉殿は壮烈なご最期を遂げた。


生きるも地獄、死ぬも地獄のような孤軍奮闘振りは、みていてもお気の毒だったが、そうせずにはいられなかったのだと思う。


父上と義母上の心づくしの、わたしの煌く金色の蜻蛉は、きっとキリシタンの者どもの目にもさぞかし輝いて見えただろう。


予想通り、一斉にキリシタン軍の鉄砲が火を噴き、わたしは鎧ごと貫かれて、輿の上にむなしく崩れ落ちた。

こうなることは、判っていた。

どうか、この身はどうなっても大輔が無事でありますように・・・

この降り注ぐ敵の矢玉が、わたしだけに命中しますように。

薄れる意識の中で、それだけがわたしの希望だった・・・


大輔はわたしの身体を輿から引き摺り下ろし、陣内まで背負って帰ってきたらしい。

遠のく意識の中で、何度も大輔がわたしを必死に呼ぶのが判った。

身体中を焼け火箸で裂かれるような痛みが、広がる・・・きっと、弾が貫通したのだ・・・

大きな目でいつかのように、わたしを死なせまいとして叫ぶ・・・大輔。


大輔・・・泣くな・・・


そしてわたしの後を、決して追うな・・・


追い腹を斬るなと諭して、わたしはゆっくりと闇に包まれてゆく・・・

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