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露草の記・参(草陰の露)26 

腕の中で安らかに眠る、時折まだ幼く見える横顔。

それが兼良が見た、義元の最後の姿になった。



*****

翌日。

秀幸の使いが伝言を持って居室を訪ねたとき、既に寝所に義元の姿はなかった。
時間をかけて記した「植物図録」「薬草図録」などが数冊きちんと揃えられて、文机に残されているばかりだった。

「義元……っ!どこじゃ!……義元っ!」

「ものども。早う後を追え、義元を探せ。あの体では、そう遠くへは行けまい。」

衰弱した義元の行方を求めて、兼良は領内を捜し回り、家中総出で国境まで馬を走らせたが、何の痕跡も見出せなかった。
元より忍び出身の義元が、姿かたちを変えて国許を出奔すれば、見つけるのは困難だろうと誰にも想像はつく。野良で働く領民たちに、絵姿を見せたが誰も見た者はいなかった。

「まだ、おギギは見つからないのか。おギギに、まだ礼の一つも言うておらぬのに……。」

片羽を失った秀幸の落胆ぶりは相当なもので、照姫が傍らで袖に縋って止めなければ、病み上がりの身で自分も探索に出るつもりだった。

「秀幸さま。まだ、ご無理はなりませぬ。」

「床上げはまだ許されておりませぬぞ、秀幸さま。義元さまが命がけで救ったお命です。粗末になさいますな。」

「秋津……。しかし、早くしないとおギギが……どこぞへ去ってしまう。」

「兼良さまはじめ、家中総出で探索しておりますれば。秀幸さまは、今しばらくご辛抱して養生なされよ。」

「くっ……。」

*****

せめて一晩様子を見るべきだったと、兼良もまた自分を責めた。
だが、よくよく考えれば、義元がこうする事は、心の内のどこかでは判っていたような気がする。

神仏の慈悲に縋るため禊を重ねて祈った後、大願成就の暁には、おそらくこれまで悪鬼の如く手に掛けてきた者達の、菩提を弔わずにいられなかったのだろうと想像はついた。

五穀と茶と湯を絶ち、大願叶ったあかつきには、おそらくは神仏に一番大切なものとの別離を誓って、一心不乱の祈願をしたに違いないと思う。

加持祈祷というものは神仏をもてなした上で、祈願するものだが、長い祈りはこうして自分を見つめる場にもなる。
血塗られた両腕を合わせて秀幸と照姫の快癒を祈りながら、義元は自分が葬ってきた沢山の命の重さに気が付いたのだろう。

顔色も変えず多くの人を殺めておきながら、一方では身勝手にも命乞いする自分を顧みて、おそらく義元は身の凍る思いを味わったに違いない。
義元は秀幸の命と引き換えに、神仏に自らを捧げたのだろうか。
ふと……兼良は、義元の言葉を思い出した。

「わかさまの、お命は安堵でござる。ご安心なされよ。」

と、藩医が告げた言葉を伝えたとき、確かに義元は言ったのだ。
もう、今生に思い残すことはない……と。

それは確かに、全てに決別する言葉だった。
結願の今、秀幸の傍らには終生を誓った姫が居り、既に世の体制が徳川で整いつつある今、義元が影として戦場で矢面に立つ必要もない。

名前に冠した忠義の「義」を今生で果たして、義元はまるで泡沫のように消えた。





。゚(゚´Д`゚)゚。。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。 秀幸 照姫 「おギギ~……。」「義元さま~。」

(`・ω・´) おギギ (若さま、義元は神仏に誓いをたてておるのです。)

さて、ギギたんは独り、城を出て行ってしまいました。(ノд-。)可哀想に……←書いといて。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
あと数話で終わります。 此花咲耶


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