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露草の記・参(草陰の露)22 

「……おギギ……か……。」

(はい。若さま。)

「……内から……身が燃えるようじゃ……。」

(高い熱が有りますれば……。)

(これより義元が、若さまをお助けいたします。)

「うん……。いつも、おギギがわたしを助けるのだな。」

(はい。義元は若さまの小草履取りなれば……。若さまのお役にたつのがお役目です。)

着物を脱がせて、燃える上半身を抱き起こし、自分の肩に秀幸の頭を乗せた。
すえた病人のにおいが鼻をつく。

きつい焼酎を口に含み、霧にして肩口にぷっと噴きつけた。

(若さま。暫しの、ご辛抱です。)

「……うむ……っ。」

(肩に小柄を刺し、施術いたします。)

「……わか……った……。」

その後、動かぬようにきゅと抱きしめ、背後から熱した小柄を握り、腕に突き立てた。

「……ぐっ……!」

熱を持った身体が逃れようと、反って硬くなる。
そのまま、煮沸した小柄の切っ先で膿を塗りこみ、その後秀幸を横たえると、熱した針で四針ほど縫った。

*****

入り口付近で控えた秋津は、鬼のような形相で、秀幸の上に屈みこんだ義元の手元に集中している。
何か不審なことでも有れば、すぐに義元を切り捨て、自分も割腹して果てる覚悟をしていた。

(秋津さま……。若さまが……汗をかいておりまする。お召し替えを、お手伝い下さいますか。)

声をかけられ我に返り、やっと息をついた。

「義元殿。終わったのか。」

(はい……。これからが勝負です。おそらく今宵は高い熱が出ますから……。)

「そうか。では、殿に、まずは上首尾とお知らせして参る。」

幾多の戦場で矢玉をかいくぐってきた秋津が、いっそ自分が傷を負う方が気が楽でございますと、藩主に報告した。

「若さまへの御手当ては、無事終わったよしにございます。」

「そうか。」

まだ、照姫への施術が残っていた。

*****

照姫の隔離された部屋の前では、お付きの老女が、退出せよと告げられ、よよと泣き崩れていた。

「許しませぬっ。わたくしを遠ざけて、姫様をどうするのですっ。」

「頼む。聞き分けてくれ。」

「いやでございます。姫様に何をなさる気なのですか。わたくし、ずっとお傍に居ります!」

兼良の頼みにも、老女はそこにいると言い張って、頑として首を縦には振らなかった。
義元の行う治療の仔細を聞けば、おそらく老女は半狂乱となるだろう。
時間が経てば手遅れとなり、このままでは照姫は命が助かっても、あばたが残り苦しむことになる。

「どうしたものかな……。」

(父上。わたしがお願いしてみます。)

あえかな誘う笑顔を浮かべて、義元が近寄りそっと老女の手を取った。

(ほんのしばらくですから、義元にお任せ下さい……ね……?悪いようには致しませぬ。)

(義元が、代わりに様子を見ておりますから……。さ……、あなたさまはこちらへ……。)

老女は義元を傍に見て、うっかり見惚れると、そのまま部屋の外へと引かれていった。半ば、兼良は呆れている。

「姫の傍を離れぬと喚いておったくせに、全く。年をとっても女というものは、義元のような美しい男に弱いのだな。」

聞き分けてくださいましたと、義元が戻り、すぐに秀幸にしたように施術の支度を整えた。
さすがに着物を脱がせるわけにはいかないので、抱きかかえて広く奥襟を抜き片方の丸い肩を露わにした。
微かに顔を向け照姫が何かを呟いた。

「……義元さま……。な、にを……なさるの……?」

(はい。義元は……照姫さまをお助けするのです。)

「秀幸さま……は……?」

(若さまは、ご自分のことよりも照姫さまのことを案じておられます。)

息を荒くして秀幸の容態を尋ねた照姫は、義元と目の合った瞬間ほろと泣いた。

「照の顔……は……?崩れるのであろうか……。」

目鼻口以外は、包帯で覆われて分からない。
本人が求めても、決して見せてはいけないと鏡も遠ざけられていた。
返答のしようもなかった。

(きっと、良くなりますから……ご辛抱なされよ。)

「秀幸さまぁ……。」

照姫の閉じた目から、一筋、清らかな涙が伝った。





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