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露草の記・参(草陰の露)10 

やがて藩内にふれが出され、元服後の二人が家臣一同に披露された。

大広間に並び立ち、多くの家臣を迎えた秀幸と義元の武者振りに、ざわめきのように感嘆の声があがる。
凛々しくも秀麗な一幅の絵のごとき姿であった。
頬を染めて、秀幸の後ろに控えるようにしているのを、兼良が引っ張り出す。

「これからは秀幸の家臣ではなく、縁戚になったのだからそのつもりでいるように。その為の、お披露目じゃ。」

「大丈夫じゃ、おギギ。皆、美々しい姿に見惚れておるだけじゃ。」

秀幸が小さな声でささやき、そっと指に触れ笑いかけたが、陽忍として勤めて来た義元には、素顔でその場に居るのさえ慣れなかった。薄く汗ばんだ手のひらを握り込んで、義元は強張った表情で立ちつくしていた。

その後、神社で武運長久を祈り、強い身体と精神力を持った益荒男(ますらお)として、男らしく成長するよう祈願、お祓いをし元服の儀が完了する。

これからは、一人前の男として藩の重責と義務を担うようにと、神主から言葉を賜り、二人は並んで首を下げ神妙に聞いた。

*****

元服姿を写し置くようにと、藩主のたっての願で、都から腕のよい絵師が呼ばれた。

大広間に、天に駆け上る蒼龍、紅龍の如く、秀幸と義元の二人が揃い立つように襖絵を描く段取りになっている。。
絵師は気合を入れて、襖絵用に何枚も下書きの習作を書いた。
ふと、書き損じの一枚を取り上げて義元が絵師にねだった。

(これを一枚、わたしにくれぬか?)

秀幸が気が付いて、どうするのだと聞いた。
ふっと微笑っただけで答はなかったが、首の赤い紐を引っ張り出す手に合点が行った。

子どもの頃秀幸が描いたいたずら書きを、今も守り袋の中にきちんと折ってしまってあるのを知っている。
寄る辺を求める横顔は、前髪の頃と何も変わっていない。

*****

「はは……さすがにその姿で、書き損じを「くださりませ」とは言わなかったか?」

(そのような……。父上、義元は、これより益荒男「ますらお」でございますよ。)

それ、その姿は手弱女(たおやめ)にしか見えぬと、散々に義元をからかうつもりでいたのが、父上と呼ばれ、思わず盛大に照れてしまった兼良であった。

父と呼ばれるのに慣れない義父と、まともな武士に慣れない奇妙な養子がぎこちなく笑う。

後に領民に、虹を駆け上る紅龍さまと慕われた義元の、複雑な胸中を思うものは誰もない。
薄く微笑む義元の姿は武家の形をしていたが、穏やかな小春の日差しにも似て、儚く頼りなく見えた。





(´・ω・`) こんな穏やかだと……不安。

元服の場面の挿絵を描きたかったのですが、時間がなかったです……(ノд-。)


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