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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・11 

子供のような大輔は、宴の席でも時折いい酒肴になっていた。


「いっそ殿にお願いして、若様をおまえの奥方に貰ってしまえばどうなのだ。」


「そのような邪な目で、貴久さまを見た事など天地神明に誓ってありませぬ!」


「例え酒の席でも、軽口が過ぎます!」

すぐむきになる大輔が、ここまでわたしを支えてくれたことを家中の誰もが知っていた。

江戸留守居だった家老が一時国許に帰参したとき、無礼講の酒席で、一途な大輔の奉公を満座で笑ったときもそうだった。

生真面目な堅物の大輔が、他愛の無い戯言に真剣に悩むのを見て、わたしは思わず噴出してしまった。


「大輔、わたしはおまえの所に嫁に行く気はないぞ。」

「それに、わたしは飯も炊けぬから、おまえにすぐさま里へ戻されそうじゃ。」


その場にいた、家臣どもと和やかに大輔も大笑いしていた。


だが後になって、貴久さまはわたしをお嫌いなのかと、大輔が本気でしおれているとお福に聞いて、笑うどころか、わたしは本気でありがたくて寝所で密かに泣いてしまった。

こうまで尽くしてくれる家臣に巡り会えて、わたしは何という果報者だろう。


・・・だからこそ早く自由にしてやりたいと、心底願った。

・・・母上。

この上はできる限り早く、わたしに死に場所をお与え下さい・・・


仏間で、わたしは亡き母上に初めて願い事をした。



明日は、家中のものを全て集めた評議の席がもたれることとなっている。

どうか父上に、わたしの初陣の許しを頂戴できますように。

兄上を差し置いて、願い出るのはどうかと思ったが、できれば兄上には国許に居ていただきたかった。

義母上と家臣と、頼ってきた遠い知己である板倉さまの板ばさみになって、父上が苦悩されていると下々にまで流れていた噂はきっと本当なのだと思う。


そのような憂さから楽にして差し上げたいと思うのは、僭越だろうか・・・

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