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露草の記・参(草陰の露)3 

兼良は持って来たずしりと重い木箱を、本多の眼前に置いた。

「これは香典ゆえ、本多さまが御存知よりであれば、露丸なるものの身内にお渡し下さい。そしてできれば、御伝えいただきたい。」

「ふむ……。なんと?」

「以後の三年、七年の法要も、せめてもの詫びに双馬藩菩提寺で執り行いまする。この兼良が藩主の名代として約定いたすゆえ、亡き者のことは今後も、気に留めぬようにと。」

露丸こと於義丸の生存には触れず、既に亡くなった者として話を進めている。どこか奇妙な会話だった。
「そして、これは双馬藩主、安名元秀から、本多さま宛てに書状でござる。」

「ふむ。わし宛にの……。」

さらりと書状を広げた。食い入るように文字を追う本多の姿に、内心したりと兼良は手応えを感じた。

「書状をお読みになった後は、その中身、内府殿にお伝えするも善し、本多さまのお心に止め置かれるも善し、との言伝でござる。」

そこには、双馬藩の領地で金鉱が発見されたこと、これまでの産出量の詳細を書いてあった。

「書状によれば、『元武田の金堀衆が言うには、すぐさま枯渇するような細い鉱脈ではない……』と書いてあるが?兼良殿も、ご存じか?」

「兼良の見た所、おそらく数年は持ちましょう。鉱脈は太く地中に伸びておりますれば、埋蔵量もかなりのものかと。各地で鉱山を見てまいりましたが、あれほどの鉱脈を見たことはございませぬ。」

「ふむ。天下無双の朱槍の兼良がそうまで言うか……。」

続いて持参の箱の中身を調べ、片手では持てぬほどのずしりと重い金塊を見て本多は呻った。双馬藩の本意がそこにある。

「兼良殿。よもや……主ら、露丸なる草の命を買うつもりでまいったか?」

「是非にも。」

「たかが草一人に、これほどの値を付けるとは笑止。」

にじり下がって、叔父と甥は深く首をたれた。
書状を畳む本多に、兼良が重ねる。

「これなる双馬藩嫡男、安名秀幸の命の恩人でござる。」

しばらくの思案の末、本多はついに折れた。

「それほどまでに、卑しき草の一葉を思って下さったか。露丸は何という果報者じゃ……。」

「では……?」

「約定致す。徳川と本多は、死んだ者に一切構いはせぬと、わしが一筆書いて進ぜる。内府殿にも伝え置く。」

「はっ。誠にかたじけなく。」

「香典はありがたく頂戴し、露丸の親代わりにも、死んだ子をいつまでも追うでないと伝えおく。他人の空似が双馬藩家中にいようがいまいが、徳川、本多のあずかり知らぬこと。それで、良いかな?」

内心、喝采したいような心持で、藩主の代わりに深く謝辞を述べて、秀幸は対話の席から辞した。喜びのあまり目頭が熱くなっていた。
深々と下げた頭を上げたとき、じっと見つめる本多と目が合った。
髭の強面が赤い目をした秀幸を見つめると、ふと笑顔になった。

「秀幸殿。ところでご執心の「あれ」は、佳き声で鳴きましたかな?」

視線に臆する事無く、秀幸は正面から返答する。

「出会ったばかりの幼い頃には、いたずらに泣かせたことも有りました。されど、元服の儀を終え、成人いたしましてからは、決して傍に仕えるものを無下に泣かせたりはいたしませぬ。この先もずっと命のある限り、傍に置いて大切にしてやりたいと思っております。」

どこまでも真っ直ぐに澄んだ目で見つめる、無垢な若竹のような少年である。
悪びれもせず、じっと本多を見つめた。
叔父、兼良は、意味が違うと思わず噴出そうとしたのをくっと堪え、咳払いをした。
本多も笑いながら一つ、咳をした。
なるほど……と本多は思う。

この意志の強い目を持った少年が、甘露の慈雨となり、あの露草の乾いた心を潤したか。
誰も心の内に寄せ付けようとはしなかった、頑なに強張った美しい少年の面影が、ふと本多の脳裡を横切った。




サブタイトルを変更しました。(´・ω・`)
ちょっと思っていたラストと合わない感じだったの。すまぬ~……

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