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露草の記 (壱) 24 

精鋭部隊に守られた双馬藩嫡男が、大怪我をした報は瞬く間に戦場を駆けた。

敵も味方もざわめいた。
本多は万事首尾よくいったと思い、ほくそ笑んでいる。

「よくやったぞ。露。」

未だ、露丸が裏切っているとは欠片も思っていない。
おそらく潜入した露丸の仕業に違いないと、踏んでいた。様子を見に行った草は戻ってこないが、嫡男の死を見届けたら、変化を解いた露丸を伴い、程なく合流するだろうと思っていた。
そうすれば双馬藩と和議を結び、天領を増やすのも良しと、青地図を描いていた。

双馬藩唯一の面倒な存在、名高い朱槍の軍神兼良は一度跡継ぎの座を捨てた男だから、生かしておいても決して藩主の座に付こうとはしないだろう。
傀儡の幼い藩主なら、扱いは容易い。

上首尾を聞いた、敬愛する内府の喜ぶ顔が、見えるようだった。
長年の人質の苦労が報われて、日の本一の天下人になる日も近いと思うと、目頭が熱くなる。
本多自身も忠義一徹に戦国の世を潜り抜けてきた、義に篤い本物の武将であった。

*****

その頃、ようよう自分で何とか縄を解き、蒲団部屋から転がりでた秀幸(幼名、秀佳)は、茫然としていた。
何が何やら判らない。城中は自分以外、みな慌ただしかった。

ことの仔細を知らされぬまま、腰元たちの「若さま、ご出陣」の会話で自分の代わりに於義丸が出陣したのを知った。
掛けられた色小袖に気付き、出陣したのは自分ではないと叫ぼうとしたが、どうしたものか、ひそとも声が出ない。
喉元を抑え、狼狽した。

出陣前、於義丸の飲ませた忍びの丸薬は、秀幸の声だけを痺れさせていた。
家臣どもは誰も、二人のとりかえばや(入れ替わり)に何も気づかなかった。
今や、飾り物の小草履取りなど、戦場には無用だった。

戦場にお前のようなものが出ていっても、邪魔になるだけじゃ、役立たずは奥に引っ込んでおれと、留守を守る精鋭が秀幸が城外に出るのも阻んだ。露骨に足手まといは表に出るなと怒鳴りつけられ、怒りで目から血が噴き出そうになる。

於義丸は、何ゆえに相馬藩嫡男の自分の代わりに戦場に出たのだろう。悲しみといら立ちで、身体が震えた。
戦の仔細も分からず、急ぎ様子を知ろうと天守に上った。

夜はやっと白々と明け始めたばかりで、蜘蛛の子を散らしたような戦場の中、どちらが優勢なのか、敵が誰なのか遠目には分からない。

*****

それにしても……おギギめと、秀幸は血の出るほど唇をかみしめた。
よりによって、わたしの大切な初陣を邪魔するとは許せぬ。

怒りよりも悲しみが先にたつ。

(於義丸。おまえのいう忠義の義とは、なんじゃ……。)

灯明に照らされた優しい年長者の顔に、今一度問うてみたかった。
秀幸には於義丸の真意が分からなかった。
時間だけが緩やかに過ぎ、明け方の鈍色の薄明かりが地を這い広がってゆく。

天守閣の最上階から見下ろすと、叔父の派手な紅金の陣羽織が目に入った。一騎、まっすぐに城へ向かって来る。尋常ではない早さだった。

(叔父上!何か大事があったのか……?)

独りではない。
馬上で抱きかかえられた、ぐったりとした若い武者。
だらりと垂らされた腕が、馬の動きに合わせてぐらぐらと揺れた。

(おギギっ!?)

先ほどまでの、憤懣やるかたない思いを傍らに押し込めて、思わず心配で走り下りた。
馬場で急ぎ脱がされた、兜の下の蒼白の顔が出血の酷さを語っていた。

(何故、かようなことをしたのじゃ……)

医師が呼ばれ、すぐに手当てが施された。





ヾ(。`Д´。)ノ 「……!!!!」←声が出ない。


忠義とはいつも命がけなのです。
ギギたん、大丈夫かな……(ノ_・。) ←書いといて……。

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