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露草の記 (壱) 20 

「何と、つれない若さまですこと。これ程お慕い申しておりますのに……。」

於義丸は音もなく立ち上がると、すっと側に身を寄せた。低い声で秀佳の耳元にささやいた。

「しっ!若さま。決して無用のお手向かいはなりませんよ。しばしのご辛抱。」

背丈も変わらぬ於義丸に、いきなり抱きすくめられ、夜具に倒れこんだ。

「あっ!は、離せっ!おギギっ!やめよと言うにっ!」

「おギギっ!」

華奢な「草」に押さえつけられたのは、まだ昨夜の茸毒で消耗した体力が戻っていないからだろうか。ふりほどこうとしても、固く抱きすくめられて身動きならなかった。
悔しくて、幼い子供のように喉元にひくっとしゃくりあげるような嗚声が上がった。
初花を散らす処女のように、みっともなく組み敷かれ、わめき散らすしかない自分が情けなかった。
双馬藩の惣領が、ここまで愚弄されねばならぬのか……。

「……うぅっ……。」

涙が流れた耳朶に、小さく囁く声がした。

「お許しください、若さま。」

すっと離れると、ふと身体が冷えたような気がする。側に控えた於義丸が頭を下げた。

「もう、行ったようでございます。」

「な……にっ?」

裏返って涙声になってしまった秀佳は、於義丸の笑顔に戯れだったのかと、ほっと一息吐いた。

「奥方さまが秀佳さまに張り付けた密偵が、様子をうかがっていたのです。お気づきになられませんでしたか?」

「ずっと部屋の外に張り付いておりましたので、一芝居打ちましてございます。」

「そうだったのか。わたしはおギギが、……突然意地悪になったのかと思った。」

「若さま。於義丸は秀佳さまを好きですよ。意地悪など致しません。」

ふふ……と年長に見える於義丸が微笑んだ。

「お可愛らしいことです……。」

頬を伝いかけた秀佳の涙を舐め取り、於義丸はつと立ち上がると、するりと全ての衣類を滑らせ脱いだ。

「おギギ?何をするのじゃ?」

「さ。若さまも夜着をお脱ぎくださいまし。」

縮緬の下帯一つで、一瞥くれた流し眼は息を呑むほど妖艶で、共に魚を釣りに行った少年とは思えなかった。

「そちは……何者じゃ。何をする気だ?」

「わたくしは……生まれながらの「草」でございます。」

「生も死も、性別までも偽って、顔も形も風の言うまま、自在に向きまする。どうぞ、これからの一幕は「とりかえばや」とお思いあそばして、於義丸の言うままになされてくださいませ。これから、於義丸は若さまに成り代わりまする。」

「なぜ左様なことをするのじゃ?」

「いずれ全てお分かりになる時が参りましょう。於義丸は若さまのお味方です。さ、秀佳さま……。」

くるりと言われるまま剥かれて着物を取り替え、秀佳は小草履取りの形容(かたち)に、於義丸は秀佳になった。
その後、しばらく鏡に向かい、含み綿やら、膠(にかわ)やら、化粧道具のようなものを使っていた於義丸は、その後、剃刀で器用に月代を剃りあげ、見慣れた秀佳の顔になって暇を告げた。

「若さま。しばしの、お別れでございます。」

「おギギ……?どこへ行く。」

「若さま。」

見た目は幼くなったが、口調は、先ほどまでの年長者のように優しい。

「於義丸の義は、忠義の義。しかとお見せいたします。」

「おギギ、行ってはならぬ。まだ、聞きたいことがあるのじゃ。傍に居よ。」

「お可愛らしい若さま。於義丸は、お側にいられたこの至福の二年間の事、生涯忘れませぬ。」

そんな言葉は、最期の別れのような気がした。
行くなと手を伸ばした胸元に、すっと潜った於義丸が当身を入れて、秀佳の意識は闇に呑まれた。





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城中の奥深くまで、敵方の間者は侵入しています。
これから先、於義丸は一体何をするつもりなのか……。続く~(*⌒▽⌒*)♪

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