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露草の記 (壱) 17 

兼良は藩主より先に、城中の居室へ自分を訪ねて来た「草」と対面していた。
寮へ入る前日、武人は部屋に入るなり人の気配にすぐさま気づき、部屋の片隅へ明かりを向けた。

「何者じゃ。よくぞ、この堅牢な城の奥まで入り込んだものよ。」

その場に手をついて、涼しげな顔の少年は答えた。

「安名兼良さま。御目文字したことがございます。」

女ではないが、見覚えのある派手な小袖を身につけて、姿に似合いの柔らかな女言葉を使った。

「さて……その顔に覚えはないが……?」

「この顔では、お初に御意えますが……。わたくしは、相馬藩嫡男、秀佳さまのお傍近くにて、お命を狙うものでございます。」

「何と……っ。」

驚く兼良に、涼しげな目元の少年が、思いつめた顔をして名乗った。

「今は、秀佳さまの小草履取り、於義丸と呼ばれております。秀佳さまをお助けしたく、まかり越しましてございます。」

「於義丸だと?」

刺客が、自らの身分を明かすなど聞いたことがない。
兼良には、夕餉に仕込まれた毒から甥を助けた一途な小草履取りと、眼前に手を突く少年が同じ人物とは到底思えなかった。
そこに伏しているのは、兼良の知る於義丸とは似ても似つかぬ涼やかな面だった。

「その方が秀佳に仕える於義丸どうか、確かめる術がどこにあるのだ?命を狙う不埒者が、何をしに参った?間者と言うならば、毒茸を仕込んだのもその方か?」

ずいと足を進め、ひれ伏す於義丸に問う。

「それは違います。断じてそのような事は致しません。されど……この身は草でございますれば、何を話しても詮無きことと存じます。」

「暗殺は誰の密命だ?」

人に聞かれぬように、顔を寄せた。今や、城中は誰が敵で誰が味方か分からなくなっている。

「潜入の仔細は、申せませぬ。なれど、秀佳さまをお守りしたい気持ちに、決して嘘はございませぬ。露は秀佳さまのお力になりたいのです。」

「おのれっ!仔細は何も申せぬでは、まるで話にならぬわっ!信じるに足る証しを立てよっ!」

苛立った兼良が襟を締め上げた後、畳に叩き落とし、腰の長脇差の鞘で力任せに於義丸の背を幾度も打った。
何の弁明もせず、声も上げず黙って打たれていた於義丸が蒼白の顔を上げた。
乱れた前髪が玉の汗が浮く額に、はら……と、かかる。

「つ、露は……お寂しい秀佳様を、お守りしたいのです……。」

凛とした、決意の目で続けた。

「本心よりただ一人の、ご主君と思えばこそ。」

「露……とやら。その言葉に偽りはないな?」
「天地神明に誓って、二心はございませぬ。」

ひたと、目線を合わせて兼良を見つめる。
揺るぎのない澄んだ目であった。
兼良は肯いた。

「急ぎ、藩主に会わせてつかわす。御前でもう一度、その繰言述べてみよ。本当の名を申せ。」

「露丸……と申します。」

小草履取りは、翌日の丑三つ時に、密かに一人でお狩場の寮へ訪ねてくるようにと言われ夜道を急いだ。
影となって走る於義丸を、月が追う。




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於義丸、通称おギギ、露丸、露、草……名前がいっぱいでややこしいです。
真意を打ち明けた於義丸と秀佳は……続く~(*⌒▽⌒*)♪

第一章の半分を少し過ぎたくらいです。 此花咲耶

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