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露草の記 (壱) 6 

周囲はいつしか、影のように秀佳の傍にいる於義丸の存在に慣れた。

義母は、秀佳と瓜二つの子供を城に入れた夫の軽挙に呆れはしたが、人畜無害な飾り物と知り、文句は言わなかった。彼女には、腹を痛めて産んだ倖丸の処遇だけが重要だった。
義理の祖父の城代家老は、さすがに一言嫌味を言ったが、藩主は笑い飛ばしてしまったらしい。

「秀佳さまには、藩内の重臣の子弟が小姓としてお傍に居りますれば、あのようなものは置かずとも良いのではありませんか?」

「まあ、そう言うな。わしが、あの者を欲しかったのだ。二人並び立つ姿を、見て見たかった。可愛いだろう?」

それにな、城代……と、藩主は改まった。

「どの道、ものも言えぬ哀れな小童じゃ。少しばかりの扶持を親元にくれてやれば、孝行になるだろう。」

「はっ……。」

苦虫を噛み潰したような顔で了承して、その日から於義丸はれっきとした双馬藩の禄を食む家臣の一人になった。

「平和になって後、美々しい小草履取りを奪い合う他藩のいさかいは、よく耳に致しまする。どんな揉め事になっても、知りませんぞ。」

訳知り顔で一言、嫌味を言うのは忘れなかった。
藩主は、つるりと頬を撫ぜた。

「揉め事?双馬にはその方がいるから、安泰だろう?それにどれほど美々しゅうとも、双馬藩嫡男の小草履取りに、懸想するものが居るとは思えぬ。」

食えないお人だ……思わず、家老は倖丸の祖父の顔になった。

*****

ある日。

いつも静かに行儀良く、教室の後で講義を聞いて居た於義丸は許されて、教室の隅で皆と手習いをすることになった。藩主から励むようにと、於義丸に真新しい硯が届けられた。
於義丸は、全てに覚えの良い性質のようで、書き損じの紙も無駄にすることなく一生懸命、手習いをした。

「おお、これはなかなか見事に書けたではないか。勢いがある。」

於義丸の書を見た教授が、褒めてくれた。
頬を染めてうれしそうにする於義丸が、秀佳にも見せたかったのだろう。とことことやって来て、そっと机の上に自分の書を広げて顔を覗き込み、言葉を待っていた。

「ふうん……。これを書いたのか。」

まだ形の取れない拙い字で、於義丸と書いてある。

「おギギ。書というものには、落款が要るのじゃ。」

上手く書けたと初めて褒めてもらった半紙の上に、秀佳は意地悪く重ねて魚の絵を描いた。

「あ~っ。若さま。」

「可哀想ではないか。せっかく先生が褒めてくれたのに。」

学友が袖を引いたが、秀佳は意地悪だった。

「これで良い。おギギには、魚の落款が似合いじゃ。」

しばらく呆然として、いたずらされた書を見詰めていたが、どうしたものかきちんと畳むと懐に入れた。
何を考えているのか、よく分からないが酷く扱うと涙ぐむ於義丸の表情は、物を言う程に可愛らしくころころと良く変わった。

皆も最初はどう扱っていいものか思案していたが、なんでも一生懸命な於義丸を、分け隔てなく友人として扱った。
ただ、秀佳だけが、そんな於義丸に冷ややかだった。
大好きな父さえ、自分と共に居る短い時間を割いて、もの言えぬ於義丸に四書五経の内容を講義したりするのが不愉快だった。

*****

こんなこともあった。
ある日、秀佳は雨の日にぼんやりと濡れ縁に腰掛け、紫陽花の上のかたつむりを眺めていた。

親子かどうかもわからないが、大きなかたつむりの背中に、小さなかたつむりが乗っていた。角をつつき合う睦まじい姿が、何故か無性に癇に障った秀佳は、背中に乗ったかたつむりを指で弾いて落すと、その場で無下に踏み潰した。
気配を感じて振り返れば、そこに於義丸がいた。
秀佳の所業に驚いて、ぱんと瞠った於義丸の瞳が、自分を責めているような気がして、思わずその場からそそくさと立ち去った。

物陰から様子をうかがっていると、於義丸は懐紙の上にそっと潰れたかたつむりを拾い上げた。その後、潰れた小さなかたつむりのために、於義丸は庭の隅に濡れながら穴を掘って小さな墓を作り、野の花を手向けた。
物言わぬ於義丸が、丸い置石に両手を合わせているのが、犯した無体を無言で責めている気がした。

「あてつけがましく墓など作って……わたしに慈悲深くせよと言いたいのだな。おギギなど……何もわからぬくせに……。おギギのくせに。」

秀佳の内側に抱えた小さなわだかまりは、種となって残っていた。

そして、とうとう後日、秀佳は於義丸にとんでもないことをしてしまう。




(´・ω・`) 於義丸:『とんでも無い事って……?』

( *`ω´) 秀佳:「ここでは、言えない。」

中々、仲良くなれませんね~、がんばれ、ギギたん。(´・ω・`) ←書いといて。


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