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情人よ、深く眠れ 4 【最終話】 

鏡弥は満足げに微笑むと、別れを告げた。
静かに、そしてゆっくりと、眠りの世界へと沈んでいったようだった。
知らずに自分の頬も濡れているのに陽太は気付いた。自分だけの肉体を持っていなかったが、確かに鏡弥は存在した。
最愛の恋人との別れは、陽太にとっても胸が痛むほど切なかった。

*****

「鏡弥は、あなたをとても愛していたのね。統合はうまくいきました。充弥と鏡弥は互いに必要な人格だったと認め合いました。」

明良が告げた。

「鏡弥は、充弥と同じ年齢まで成長して、統合を終えました。今、充弥は鏡弥の記憶を全て追っています。とてもショックを受けているようですが、鏡弥はあなたが全てを知っても、変わらず愛してくれていると励ましました。わたしも、充弥の一部に統合します。」

「あなたも?」

「ええ。同じ人を愛し信頼し合った彼らが分離することは、二度とないでしょう。わたしも深層意識の中で眠ります。もう、鏡弥と共に出て来ることはありません。桜口充弥は、自分の力で一つになりました。」

「ありがとう、明良さん。」

「お礼を言うのは、こちらの方です。充弥を救ったのはあなたのおかげだったと思っています。陽太さん。あなたがこれまで払った多くの犠牲に、二人はとても感謝しています。彼らは、あなたの無償の愛に救われました。ありがとう……。」

再び充弥は目を閉じ、明良も深い眠りについた。
陽太の見守る中、やがて深く眠っていた充弥が目を覚ました。
どこか、これまでのおどおどとした弱々しい充弥と印象が違っている。うまく、鏡弥と統合出来たせいだろうか。
はっきりと強い意思を持った瞳が、煌めいていた。

「陽太。鏡弥が仲良くしろよって、言ってくれた。」

「そうか。俺にも鏡弥はそう言ったよ。鏡弥は、充弥の兄貴のような人格だったんだな。」

「そうみたい。何だか、身体の内側に強い力を感じるんだ。きっと、鏡弥が負けるなよって言ってる。強く生きろよって。」

「何しろ二人分だからな。充弥はきっと強くなってるぞ。」

静かに回っていた機材を、教授が止めた。症例の一つとして、保管させてもらうよと、教授は言い、二人は合意した。

「ありがとうございました。教授に色々、相談に乗っていただいたおかげで、充弥が無事に統合できたと思います。信じて下さらなかったら、どうしようもありませんでした。」

「実際に統合させようと言い出したのは、明良という存在だったね。今回、実際にISH に会えたのは、わたしとしても興味深かった。今後の為にもいい経験をさせてもらったよ。まあ、この映像も石頭連中はやらせだというのだろうがね。」

教授はふっと、夢から醒めたような気がするよ、と笑った。

「陽太と教授が、どこかで発表するのなら、ぼくの実名や過去を出してもかまいません。」

「君にしては、ずいぶん強気だな。充弥。」

「うん。陽太の役に立つのなら、そのくらい……平気。」

「研究は続けたいから、時々は話でもさせてくれるとありがたいね。経過報告とか堅苦しいことを言わずに、たまには一緒に飯でも食おう。都築君と一緒にね。」

「はい。教授。ありがとうございました。」

*****

「陽太~!」

ぶんぶんと手を振る充弥は、ぴったりとした細身のレザーのパンツに、派手な鋲を打った上着を羽織っていた。大人しい色の、ユニセクスなデザインばかり選んでいた充弥の趣味に、時々鏡弥の趣味が混じるようになった。

「不思議なんだよ。ぼくね、音楽はからきしだったんだけど、譜面が読めるようになってるんだ。今日もさ、サックスとかいきなり吹けて驚いた。しかも、結構うまいの。」

「へぇ。音楽は鏡弥の影響だな。」

「うん、仲間と居るとすごく楽しいんだ。それとね、古い建物に興味が出てきた。あの……明治時代の洋風建築みたいなの、いいなって思うんだ。今度、一緒に見に行こうよ。」

「二人分の人生だからな。これからがんがん吸収していこう。でもその前に……いいか?」

「ん……。」

目許を朱に染めて、充弥が蕩けた。

「二人分……いっぱい愛して……。ほら、ぼくも、もう待てないよ。」

陽太の腕を掴むと、そっと自分の下肢に押し当てた。これまで充弥がそんな大胆な行動をとったことはない。
鏡弥の影響かどうか、奥手だった充弥が統合以来、愛し合う事に積極的になった気がする。

充弥の何もない胸に、敏感になるよう人工的に膨らませた乳首が勃起する。ふっと息を掛けただけで、吐息が甘くなった。
いつも感じていたいからそうしてほしいと、先端にふくらみを作ってくれと充弥がねだった。恥らいながら、絹擦れの音をさせて、充弥が着ているものを落としてゆく。張りつめて色づいた紅い乳首は、ぷくりと張りつんで熟れた茱萸(ぐみ)の実のようだ。
音を立てて、陽太は敏感な場所を吸い上げた。

「あぁ……シャツが当たっただけで、ここが疼くんだ……。初潮前の小さな女の子の、固いおっぱいみたいだね。」

「知らないくせに……。セクスの時、充弥はすごく官能的になった。すごくどきどきする。」

「ああ……っ……。」

薄くなった皮膚の先端に、歯を当てて甘噛みすれば、白い喉がのけぞった。

「鏡弥の記憶は、全部ぼくのものだよ。何だってできる……。」


柔らかな葉巻型の薄紅のファロスを持つ、鏡の中のヘルマプロデュートスが、艶めかしい微笑みを寄越した。


                             情人よ、深く眠れ ―完―




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長らくお読みいただき、ありがとうございました。
あとがきを書きます。 此花咲耶


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