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情人よ、深く眠れ 3 

それは、これまで実際に存在するかどうかわからなかった、第三の人格の出現だった。
ISHは、全ての人格の観察者であり、理解者でもある。
その口調は柔らかく、どこか女性的な印象を受けた。充弥と鏡弥に起こったすべての事柄を知っている、慈愛に溢れ包容力のある存在だった。

どんな多重人格者の中にも、ISHは存在すると、今は広く知られている。一人の時もあれば複数存在する場合もある。
交代人格の作り出した問題を知り、極めて客観的に整理をし問題を解決してゆく。患者を正しく健全な状態に導く存在、ISHに、陽太はどうすればいいか話を向けた。

「あなたは、どなたですか?」

「……そうね、あなた方が、神の代理人とか、Inner Self Helper(内部の助力者)と呼んでいるものかしら。名前は明良(あきら)。」

「あきらさん。」

「ええ。」

「あなたは女性?それとも、男性ですか?」

「わたしはどちらでもないし、年齢もわからない。でも、見た目は女性のように見える。充弥が求めた母性のようなものかしら。」

「充弥は親に愛されなかったそうです。俺には見えないけれど、もしかすると明良さんは充弥の理想の女性の姿なのかもしれません。充弥は、うんと優しく女の子のように扱われるのが好きですから、どこかで自分に無いものを求めていたと考えられます。」

「そうね……。わたしの姿が中途半端なのは、充弥が女性の情報を持っていないせいでしょうね。わたしは、二人がこのままでいいとは思っていません。だから、あなた方に手を貸そうと思います。今のままだと、鏡弥は自殺のように全ての自我を手放してしまいます。充弥も、鏡弥が受けてきた恐ろしい事実を知ると、おそらくひどいショックを受けて、まともではいられないでしょう。そうなると、残されるのは精神の崩壊した抜け殻だけです。目を開けていても、この身体の感情や感覚は失われてしまうでしょう。」

「そうならないようにあなたが、二人に話をしてくださるのですか?」

「ええ。そのつもりです。これから二人と話をしてみます。互いに必要な存在だったと、過去にさかのぼって伝えてみます。」

******

充弥は深く眠っていた。
天使の寝顔で横になった恋人の内側で、三人の話し合いが行われているはずだ。明良と名乗る人物に全てを託し、陽太と教授は見守っていた。
自分は鏡弥と充弥を、正しい未来へ案内する存在だと明良は言った。充弥の本質は、明良のように優しげなのかもしれない。
臨床医の間でも、多重人格は単なる分裂症と考える者は多い。しかし、はっきりと充弥と鏡弥の存在を知っている陽太は、現れたInner Self Helperが、症状などではない別人格と理解した。

陽太は明良が再び浮上してくるのを待っていた。
ぴくり……と充弥の指先が動いた気がする。
静かに瞬きが繰り返され、誰かが表面に浮かび上がってきた。

「陽太……さん。ぼく、お別れを言いに来たの。」

「鏡弥。充弥の振りをしたって駄目だ。前にも言っただろう?俺にはちゃんと鏡弥がわかるんだからな。」

「そうだったね……。うふふ。」

くしゃと顔を歪めて笑おうとした鏡弥の頬を涙が伝った。陽太は耳元に告げた。

「淫乱で痛いのが好きな鏡弥。俺はちゃんと丸ごと鏡弥を愛していたよ。鏡弥と過ごした刺激的な夜を、絶対忘れないからな。」

「うん、ありがと。充弥にも、愛してるって言ってやって。鏡弥がああなったのは、おまえのせいじゃないって。だから自分を責めるなよって。充弥……あいつ、今も子供みたいにぴぃぴぃ泣いてるから。ぼくがそばにいなくなるのが不安みたい。」

「わかった。後は任せてくれ。」

「明良が言ったんだ。ぼくは消えるんじゃないって。充弥の中に性格として、ぼくは残りずっと共に生きるだろうって。ぼくは、充弥を守る為に生まれたんだって。だから、仕事……使命?が終わったから帰るべき場所に帰るんだって。」

「そうか……帰るのか。」

「ねぇ。充弥の中にぼくを探さないでね。充弥は陽太が、ぼくの方をたくさん愛してるっていつも泣いてた。自分じゃ満足させてあげられないって……。馬鹿だね。ちゃんと愛されているのに……。」

「鏡弥は、心配性の兄貴みたいだな。」

「そうだよ。だってね、初めて会った時は、こっちは4つも年上だったんだ。いつの間にか、充弥の方が上になっちまったけどね。陽太……消える前に……いや、統合って言うんだっけ。嫌じゃなかったら、最後にキスして。」

「嫌なわけないだろう?大好きだ。」

教授が目を見開いて言葉を失っているのを尻目に、陽太は鏡弥に別れの深いキスを贈った。

「これまで充弥を守ってくれて、ありがとう。鏡弥。安心しておやすみ……。」

「うん。ぼくも愛してたよ、さよなら……陽太。」

がくりと、「桜口充弥」の体は、寝台に沈んだ。





なんだか長くなってしまったので、最終話を分けました。

明日で終わります。ちょっと説明が長いかなぁ……。  此花咲耶


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2 Comments

此花咲耶  

tukiyo さま

> なんか泣けるね(p_-)

(*⌒▽⌒*)♪ありがとうございます。作られた人格の鏡弥は、自分の事をよくわかっています。

> 鏡弥~~淫乱なんて言ってゴメンよぉー。

(〃ー〃)ちゃんと、色っぽい感じでお読みいただけたなら良かったです。
つか……BLになってるのかなぁ……そこが、ちょっと心配でっす。(`・ω・´)
コメントありがとうございました。後一話で完結です。
よろしくお願いします。

2012/04/17 (Tue) 00:54 | REPLY |   

tukiyo  

なんか泣けるね(p_-)
鏡弥~~淫乱なんて言ってゴメンよぉー。

2012/04/16 (Mon) 22:26 | EDIT | REPLY |   

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