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鏡の中の眠れるヘルマプロデュートス 4 

「あの人たちだ。」

「陽太……どうしたらいい?お金、ない…………どうしよう。」

「大丈夫だ。鏡弥。」

黒いスーツの猛々しい男たちの目に触れないように、陽太は車椅子を押して、鏡弥を自動販売機の横に隠した。状況を知ることの方が先だ。

「修理代はいくらだって?」

「軽く見積もって65万円だって。でも、ほんとにほんの少し、当たっただけなんだよ。爪の先でちょっと削ったくらいの……きっと何かで擦ればわからなくなると思う位の、小さな傷なのに……許さないって。」

「鏡弥、相手が悪かったんだ。金は俺が何とかするから。」

絆創膏と包帯だらけの鏡弥は、俯くと強く首を振った。抱かれた陽太の拳に、水滴が散る。

「無理だよ……、大金だもの。陽太に迷惑かけられないよ。陽太だって、生活費かつかつでバイトしてるんだもの。ぼく、待ってくれるように、話してみる。身体が治ったら、働いて返すって言ってみる……。」

「駄目だ。鏡弥は交渉には出ない方が良い。いいから、俺に任せて。鏡弥に目を付けられないようにしないと。絶対に、あいつらに鏡弥は渡さないから。」

下を向いたきりの鏡弥の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、陽太は決心を固め雄々しく立ち上がった。高波の打ち寄せる岩場に鎖で縛りつけられた囚われのアンドロメダを、救うために。
岩場へ救出に行ったとき、全裸で縛められた美しい王女の涙を見て、ペルセウスだってきっと気合が入ったに違いない。

「でも……陽太が心配だよ。」

「いいから。」

両手で小さな顔を包み、そっと目蓋にキスを落した。
小さく鏡弥の吐息が洩れ、桜貝が薄くほころびて陽太の舌が侵入するのを待っていた。
付け根に深く舌を絡めた陽太を、おずおずと鏡弥が煽る。
とん……と、シャツに涙の跡をつけて、鏡弥は陽太の懐深く身を預けた。思わず胸の中の華奢な身体を強く抱きしめ耳元に囁いた。

「いいな。鏡弥はあんな奴らと関わっちゃ駄目だ。何されるかわからない。病室に帰ってろ。一人で大丈夫か?」

「うん。陽太が心配だから、ここで待ってる。」

Ⅴシネマで知る位の知識しかなかった陽太は、誰よりも綺麗な鏡弥がそう言う輩の手に落ちた時どうなるか、読んだ小説を基に想像をたくましくしていた。
たまに読むハードボイルド小説の中では、借金の片として、取り込まれた被害者が何処かへ連れて行かれる色々な話があった。少女のような少年が、悪の組織に誘拐され作り物の乳房を付けられると性宴に供される。特殊な神を信じる饗宴の供物として捧げられ、信者たちに引き裂かれる。
恋人の鏡弥がそんな目に遭ったらと想像すると、唇が渇く。
飢えた野獣の群れに放り込むような真似は、絶対にさせないと陽太は腹をくくった。
その筋の男たちの半端ない眼力に、ほんの少し気圧されながら陽太は、「桜口鏡弥くんの事で、お話があります。」と声を掛けた。

訝しげな視線を向ける黒服が、グラス越しに素早く陽太を値踏みし、あの可愛い坊やの知り合いか?と問うた。

「友人です。彼は怪我をしているので、できれば代わりにお話を伺いたいと思います。」

「学生さんかい?」

「はい。同じ大学の一回生です。都築陽太といいます。」

「ほう。同じ大学ね。揃ってお利口さんなんだな。」

後で思い起せば、全てが巧妙とは言えない仕掛けの連続だった。
全てが、陽太(ひなた)を取り込むために仕組まれていたような気がする。
交通事故を起こしたその前日、肉身は母親だけで奨学金をもらって大学に入ったんだと鏡弥は語った。そして次の日の事故。鏡弥に金が無いのは、すでに陽太に刷り込み済みだった。
だが、今の陽太には、ただ鏡弥を守ることが全てだった。
病院のロビーで待ち合わせ、二人は毎日同じ会話をした。

「事故の事、母さんには、言った方が良いってわかってるけど……。今だって、掛け持ちして仕事してるのに、どういえばいいかな……。」

「言わなくてもいいさ。もうすぐ退院できるんだろう?気にするな、鏡弥。俺が何とかする。病院の方は、待ってくれるって言ってくれたんだろう?」

「うん。学生だから、救済措置があるから大丈夫だって。でも……。修理代が、大金でしょう?陽太がぼくの代わりに借金抱えることになっちゃう。」

「とにかくさ、最初の65万は早く入れた方が良いと思うんだ。ああいう輩とは、とにかく早く縁を切らないと。気合入れてアルバイトするよ。家庭教師は早い時間に終わるから夜間の道路工事も入れる。」

大学に入ったばかりの陽太は、口ばかりは一人前だったが、相手を甘く見過ぎていた。
週払いのバイトの金を何度も支払ったが、全て利子だと言われた。

「元金減らさないと、借金てのは減らないんだよ、学生さん。又、来週、利子を持って来な。」

「そんな……。」

赤子の手をひねるより優しく簡単に、相手の望むまま陽太は借金を作り、雪だるま式に増える法外な利息の返済に追われてゆく。鏡弥の事を持ち出されると、従うしかなかった。

「あの可愛らしい兄ちゃんに、ちょいと足を開いてもらえばすぐに借金なんぞ終わっちまうんだがな~。その手の客なら山と居るから紹介してやる。腹くくってさ、思い切ってやらさないか?金回りの良い上客を回してやるから、そうしろよ。」

「そうそう。その方がお互い話が早い。兄ちゃんもせっかく頭いいんだからさ、早く大学に戻りなよ。」

「鏡弥には、絶対にそんなことさせません。俺が守ります。」

悲鳴のように断りを入れると、下卑た笑いを浮かべる相手に、元々そう言うつもりだったのだと陽太は心底思った。

事務所へ行った帰り、陽太は大学に行き休学届を出した。とにかく仕事をしないと……。
有名大学の名前のおかげで家庭教師の口はいくつもあったが、それだけでは足りなかった。真夜中の皿洗いやコンビニのバイトも増やした。
追い詰められていた……。




何かね~……書いてるうちに、どうやらブラックこのちん発動……♪な予感。ψ(=ФωФ)ψ
とんでもない展開になりそうなので、痛いの嫌いな方はご注意ください。

……まだちょっと早いけど。         此花咲耶


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