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鏡の中の眠れるヘルマプロデュートス 1 

ポストの中に待ちわびた合格通知を見つけて、都築陽太(つづきひなた)は小さくガッツポーズをした。

「よっしゃ!サクラサク!」

それは行きたかった本命の大学から送付されて来たもので、これでやっと家を出る口実が出来た。既にネットで合格は確認済みだったが、こうして書類が届くと現実に動き出す口実になる。
一度家を出てしまえば、自由に生きられる……それだけを望んで、これまで懸命に机に向かって来た。
何の不満があるわけでもない。ただ、田舎の町が窮屈だった。
勉強が良く出来て、そこそこ運動神経もある。先生や友人の人望と羨望、異性からの思慕の視線を集めながら、陽太の胸の底にはいつも昏いものが横たわっていた。
やっと自由になれる……両羽を雁字搦めにしてきた、目に見えない束縛からやっと逃れられる。

「まずは、住む所からだな。」

幾つかの候補を手に、陽太はほっと一つ息を吐いた。

*****

陽太(ひなた)は物心ついてからずっと、自分の性癖、嗜好に悩んできた。
親にも兄弟にも、友人にも言い出せず、ずっと深く内に隠して来た。周囲に同種のものはいず、一人だけどこか悪いのではないかと、疑ったこともある。
女っぽい性格ではないし、華奢な肢体が欲しいと思ったこともない。むしろ、小学校から運動部に所属して、周りの声を鵜呑みにすれば、筋肉質の男らしい方だと思う。

だが、陽太の鼓動を早くし、頬を染めさせるのは清楚なレースのサマードレスの似合う女の子ではなく、たわわな乳房を揺らし、薄物のブラウスを着て下着の輪郭をわざと見せつける、獣のような年上の女性でもなかった。
線の細い身体に薄い筋肉が乗った綺麗な男の子に、陽太は劣情を抱く。本屋に行けば、筋肉質の男らしい男性の載ったその手の雑誌を目にすることはある。陽太の求めるものは、同じ性癖を持つ輩の中でも変わっているようだ。

乳房の無い白い胸が汗に浮くのを想像する時、陽太の下半身はずくんと熱を持って勃ちあがった。折れそうに華奢な細首がしなるのを想像し、真夜中、陽太は雄芯に手を伸ばし青い精を吐く。
吐精の瞬間、脳裏に浮かべるのは男でも女でもない、両性具有(ヘルマプロデユトス)に見える細身の少年だった。
身体の下で喘ぐ少年の、鎖骨に流れる汗が脳裏で閃光に変わる。
ひっそりと想いは表に出ることなく閉じ込められて、陽太は田舎の高校を答辞を述べる成績優秀な生徒会長として卒業した。

*****

親元を離れて大学に入り、陽太は晴れて自由になった。
長いこと胸に置かれていた、重石が取れた気がする。
これからは同じ嗜好を持つ恋人が出来ても、親の顔を浮かべなくてもいいし、誰に何を言われることもない。
ただ微かに期待はしていたが、大学に入ったからと言っていきなり恋人ができるはずもない。まずは新しい環境になれる方が先だった。

独りでぼうっと課題のテキストに目をやりながら、昼食を取っている時「ここ、いいですか?」と、学食で声を掛けられた。どうせ、新入生を勧誘するサークルに違いないと、席を立とうとして視線を巡らせた。入学以来、そういうのが山と近づいてくるのは、通例なのだろうが無視することにしている。
大抵は「何様?」と相手は小さな声で悪態を吐き退散するのが常だが、今日の相手は違っていた。




新しいお話です。
着地点(結末)は決まっているので、始めます。
お読みいただければ、うれしいです。
いい具合に、読み手さまを裏切れたらいいなと思っています。 此花咲耶


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