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純情男道 5 

門倉は笑っていなかった。
膝を崩し、ゆっくりと、何杯も温燗を煽っていた。

「そ……そりゃ、そういったけど、ちょっと待て。隼は物じゃないし、あいつを門倉にくれてやるわけにはいかない。」

「それでは約束が違います。」

「なぁ。これから金が要るだろう?俺はそのつもりで、バイトの金や小遣いをずっと貯めて来たんだ。ここに、200万ある。門倉の苦労を思えば足りないだろうけど、受け取ってくれないか。」

傍にいた木本は、先代に仕えた門倉が一度口にしたことは、どうあっても曲げない男だと知っていた。先代の傍で、まるで先代と双生児のようだと言われるほど、考え方も似ていた。

周二は門倉との約束をたがえるわけにはいかない。それは、極道の家に生まれていずれ4代目を継ぐ木庭周二の「面子」をつぶす事になる。盆に載せた二本の真新しい紙封を、門倉は押し戻した。

「周二さん。交したのは男同士の約束です。金でどうこうという話じゃありません。」

「それとも周二さんは、極道から足を洗うしかない門倉との約束は、反故にしちまいますか?破門にされた年寄りなんざ、切り捨てたって誰も何も言いやしません。腕っぷしも、きっともう、周二さんに叶いません。」

どんと、周二の心臓が跳ねた。何か言おうとしたが、口中に砂利を突っ込まれたようで、なかなか言葉にならない。

「門倉……。隼は極道じゃないんだ。ただの……堅気の俺の同級生で、まだ俺の物にもなってない……何も知らない無垢なねんねなんだ。」

「そうですか。ずいぶん大事になさってるんですね。そう言えば……先代が病床でおっしゃっていましたね。好いた女が出来たら、他の奴が手を出す前に手籠めでもいいからやっちまぇ……って。」

「門倉!隼は……。」

「ここに連れて来てるんなら、因果を含めて引き合わせてください。初花を頂く前に、ここでゆっくり美味い酒を頂いていますから。」

周二は蒼白のまま立ちつくしていた。木本が何か言葉を掛けて来たようだったが、思考が停止したまま、何も考えられない。凍りついた顔で隼の前に立った。
自分が門倉と交した約束を聞いたら、隼はなんというだろう。泣き喚いて逃げ帰って沢木に縋りつき、周二の理不尽を責めるだろうか。
隼は男なんだと言えば、諦めるかと思ったが、経験がないわけじゃありません、と、返事が返ってきて、周二はあっさりと逃げ道を失った。

*****

「あ、周二くん。お話は終わったの?」

「隼……。隼。」

「周二くんも、男のプリン、食べる?」

抱き寄せてプリンの味のする口腔をむさぼった。手にしたプラスチックのスプーンが転がった。

「隼。遠くへ行こう。今すぐ、何もかも捨てて、俺と誰もいないところへ行こう。」

無垢な瞳がしばしばと瞬く。

「二人っきりで暮らそう。な……?逃げよう。」

「周二くん。何が有ったの?ぼくにわかるように話して?」

「俺が撒いた種なんだ。隼とは関係ないのに、巻き込んじまう……。」

「ちゃんと話を聞かないと、お返事できないよ。周二くん、お兄さんに聞かせて。」

この緊迫した中で、周二はぶっと噴きそうになった。年齢は確かに隼の方が上だが、見た目はどう見ても中学生にしか見えない。この可愛らしい生き物は、片手で簡単に折れそうなほど細い首を傾けて、真剣に周二の腕を掴み揺さぶった。

「言って。困ったことが起きたのなら、ぼくが周二くんを守るから。」

「隼が……。」

「漢(おとこ)だもん。」

……もんって。

「漢は、いつだって戦う気持ちでいないといけないんだよ。周二くんを守る為に、本気で空手だって習って来たんだよ。ほら、力こぶも大きくなったでしょう。」

袖をたくし上げると、隼はぷにぷにの柔らかい二の腕に力を入れて、ささやかな力こぶを披露した。笑ってはいけない、隼は本気だ。

「……大山流通信空手、まだ続けてたのか?」

「昇級試験受かって、7級になりました。まだ、熊とは戦えないけど、そのうち瓦だって割れるようになるよ。」

「すげぇな。七級……受かったのか。(通った試験の基準、どこだ……。)」

極真二段の周二は、自慢げな隼の小さな顔を両手で挟みこんだ。稼業を思えば、いつか周二が抗争に巻き込まれないとも限らない。自分が足手まといにならないようにと考えて、隼は通信空手を始めたらしかった。傍目には大爆笑で突飛な行動だが、隼は常に大真面目で漢らしく生きようと一生懸命だった。
意を決した周二が告げた。

「あのな……ちびの頃にな、門倉に出所祝いをやるって言ってたんだ。」

「うん。」

「門倉は俺の為に親父の仇を討ってくれて、それで実刑食らったんだ。急所外して、相手は死ななかったけどな。で、チビの俺は門倉がサツに行くときに、出てきたら、俺の一番大切な物をやるからって言ったんだ。」

「うん。」

「で、な……。何も考えずに、今、俺の一番大事なのはお前だって言っちまった。」

「ぼく?」

「ああ。で……門倉は、だったら約束通りお前をくれって言うんだ。」

「一番大事なものはって聞かれて、隼だって答えたことに嘘じゃないけど、門倉に渡したりはできない。俺、隼だけは本当に特別大事なんだ。」

「ぼく……門倉さんに渡されたら、どうなるの?」

「食われるのは間違いない……と思う。長い間の禁欲生活だったし、先代に惚れて極道になった話は有名だからな。だから、あいつに食われる前に、今すぐ逃げよう、隼。」

隼はきりりと……実際はほわほわとした顔を向けて、きっぱりと言った。

「逃げるのは、だめ。漢がすたるってものだよ、周二くん。」

「でもよ!だったら、お前が門倉のものにならなきゃいけなくなるんだぞ。隼が誰かのものになるなんて、耐えられない!」

「でも、元はと言えば、周二くんが言い始めたことなんでしょう?きっちりと約束を守って仁義を通すのが、極道の漢なんじゃないの?」

周二は返答に困ってしまった。隼の言うのはたどたどしいが、余りにまっとうだった。

「あ。それに、面白がっているだけかもしれないよ。だって、これまでぼくのこと好きだとか、可愛いって言ってくれたの、パパのほかには周二くんだけだもの。会えば、きっとがっかりしてもういいよって言うかもしれない。」

うふふ……と笑う隼が、自分のことを何もわかっていないのに驚いてしまう。パパ沢木と周二が傍で睨みをきかせているから、誰も手出しできないだけで、生徒会長に襲われたことも通りすがりの大学生にやられそうになったことも、すっかり忘れているらしかった。
いくら、ド近眼で自分の顔もまともに見えないからって、自覚なさすぎるだろ……隼。
お前、ぴんくのぞうさんだけど、まじ可愛いんだぞ……と、心の中でごちた。

「がっかりなんてするかよ。びっくりはするかもしれないけどな。ああ、おれ……、タイムマシンに乗って戻れるんなら、あの日のおれをどやしつけたい。思いつきでもの言うんじゃねぇ、くそガキ、って。」

「ぼくは、お父さんを心配してた小さな周二くんに、良い子だねって言ってあげたいよ。お兄さんが力になってあげるから大丈夫だよって。」

「隼……。隼……っ。」

「とらさんのカーペットの借金も返し終わってないんだもの。いつかおちんちん売るって話が、今になっただけだよ。」

「ぼくは、覚悟を決めました。(`・ω・´)きりっ。」

「馬鹿……。一人で覚悟なんて、決めるなよ……。」

そんなの、全部お前を手に入れるためについた方便じゃねぇか……と、言いかけて言葉を飲み込んだ。腕の中の頼りなく見える隼が、健気に決心をして周二に笑顔を向けたら、ふいにぽろりと涙が転がった。

「ほら見ろ。本当は怖くてたまらないくせに。何で笑うんだよ……。」

「漢(おとこ)だもん……。」

やっとキスが出来るようになっただけの、何も知らないガキのくせに……。虎馬、いや……トラウマだって、落ち着いてるから今は表に出てこないってだけだって、大学病院の主治医が言ってたじゃないか。
隼の一生、丸ごと俺が守ってやるって決めたのに。
結局、力が無くてこのざまだ。自分の後始末もできない一番のガキは俺だ。この頼りない細腕に縋るしかないのか……。

周二は、その場に崩れ落ちた。

「ごめん。隼……。」

「門倉の所に……行ってくれ。」

ひゅっ……と、無力な狼の喉元から、細い嗚咽が漏れた。




(´・ω・`)  此花:「隼ちゃんは、大丈夫なのか……。」←書いといて。

(`・ω・´) 隼:「ぼくが、周二くんを守るからね。大丈夫、周二くんは泥船に乗ったつもりでいて。」

(´・ω・`) 周二:「隼……。それじゃ沈んじまう……。」

(´・ω・`) 隼:「……周二くんのあんぽんたん。」

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2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

「漢だもん!(`・ω・´)b ビシッ!!」って 何て潔くて勇ましい隼の覚悟なの!
語尾に”もん”付きだけど~(笑)

> (`・ω・´)「漢ですから~!」がんばるのでっす。

それに引き換え おバカ周二が!
なんで バカ正直に言っちゃうのかなぁ~言わなきゃ こんな事にならなかったのにね~
ヤレ┐((-ω-。;)(;。-ω-))┌ヤレ

> 考え無しです。つい言ってしまったのでえらいことになってます。(´・ω・`) 周二くんのあんぽんたん……

はてさて 次回は・・・
隼は 門倉に ピンクの⊂^j^⊃を剥かれちゃうのか!?
ピンクの✿を拓かれちゃうのか!?

> (*⌒▽⌒*)♪この絵文字~~wwwおもわず、爆笑でした。
> (`・ω・´)漢らしく、がんばりまっす。

それとも 門倉の真意は 別にあるのか!?
ワクワク(((o(*▼-▼*)o)))ワクワク...byebye☆

> イケそうで、イケなかった、これまでの隼と周二。
> (*ノ▽ノ)キャ~ッ……まずいっ。なんかすでに、けいったんさんには先を読まれている気がします。
> 続きは、今夜のWEBで。
> (*⌒▽⌒*)♪コメントありがとうございました。

2012/03/27 (Tue) 16:24 | REPLY |   

けいったん  

「漢だもん!(`・ω・´)b ビシッ!!」って 何て潔くて勇ましい隼の覚悟なの!
語尾に”もん”付きだけど~(笑)

それに引き換え おバカ周二が!
なんで バカ正直に言っちゃうのかなぁ~言わなきゃ こんな事にならなかったのにね~
ヤレ┐((-ω-。;)(;。-ω-))┌ヤレ

はてさて 次回は・・・
隼は 門倉に ピンクの⊂^j^⊃を剥かれちゃうのか!?
ピンクの✿を拓かれちゃうのか!?

それとも 門倉の真意は 別にあるのか!?
ワクワク(((o(*▼-▼*)o)))ワクワク...byebye☆

2012/03/27 (Tue) 11:24 | REPLY |   

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