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純情男道 4 

そして門倉宗次は、出所日を迎えた。

門倉は、恐らく迎えの者など一人も無いと思いながら、久しぶりの娑婆の高い太陽を見上げた。切り取られていない、広い空を眺めると風の中に春の香が混じっているのに気付く。

「さて……と、どうしたもんかな。」

これから一人、どうやって生きてゆこうかと思う。自首する前には、馴染みの女もいたが、結局何も告げずに捨てた形になってしまった。自分と関わって、迷惑がかかるのを恐れた。報復の代償は、門倉にとっても大きかった。

「兄貴。ご苦労様でした。」

「……木本?何でお前が?」

「話は後です。さ、乗ってください。まずは、美味い物を食いに行きましょう。何にしますか?」

訝しげな門倉に、人好きのする笑顔を向けながら問う、木本はもう30くらいだろうか。出会った頃はまだ線の細い少年の様だったのが、今や背も伸び肩幅も広くなった。思わず、自分が年を取ったのだとミラー越しの自分と見比べた。

「血の滴るような肉が食いたいと、言いたいところだがな……。胃が驚くかもしれねぇから、和食の美味いのを食わせてくれ。」

「瑞月を予約してありますよ。読みが当たって、良かったです。」

「門倉さん。親父からは何か連絡ありましたか?」

「あるわけないだろう。破門状突きつけられたんだ。……納得いかないが、親が勘当するってんだ。子が文句いう訳にもいかないだろう。」

「ええ。親父が黒だと言えば、白い物も黒になる稼業ですから……。」

「先代とは、まるで違うしな。」

核心に触れないで、互いにのらりくらりと会話を続けながら、割烹「瑞月」を目指す。木本は車を降りると、もう兄貴と呼ばずに、さり気なく門倉さんと声を掛けた。

「周二さんがお待ちです。」

「ああ。」

*****

瑞月の女将は、先代の妾で60歳は越えているはずだが、今も現役で切り盛りしている。木庭組の訳ありの会合などは、常にここを利用していた。
やんちゃな周二の理解者でもあり、ひたすら甘かった先代と同じように可愛がってくれていた。

「ばあちゃん。門倉と話をする間、隼を預かってくれ。」

「よござんすよ。だけど、隼ちゃんなら別に一緒に居たっていいんじゃないかい?門倉の出所祝いなら、組長も覗きに来るんだろう?」

「いや。親父はあいつを破門しちまったんで、おおっぴらにはできないんだ。隼はあれでもサツの倅だから、いない方が良いと思う。俺もあいつに聞かせたくない話をするかもしれねぇから。」

「あいよ。隼ちゃん、いらっしゃい。あんたの好きなでっかいプリン買っといたから、向こうであたしと一緒に食べよう。」

「……男のプリン?」

「そうよ。春限定、特選桜風味。」

「きゃあ~。」

*****

物言いが拙くて、幼く見える隼は好物もプリンだのゼリーだのイチゴだの子供っぽい。
牛乳と卵のアレルギーがあるくせに、中でもプリンが大好物だ。いっそ、身体中にカラメル塗りつけて、犬みたいに舐めまわしたいぞ、隼。
潤滑油の代わりに握りつぶしたプリンを、つるんとした尻を割って奥に塗り込……。いや、妄想……は、置いておいて。

周二は、意を決して襖の向こうに声を掛けた。

「入るぞ。」

どうぞと懐かしい声がした。

「門倉っ!」

「周二坊ちゃん。お久しぶりです。」

感傷的にならないつもりだったが、思わず声が震える。初老を迎えた男の髪には白いモノが混じり、10年の重みを感じさせていた。

「長い間ご苦労だったな。親父の代わりに礼を言う。この通りだ。」

「いいえ。勝手したのはこちらの方です。周二坊ちゃん、度々差入れ頂いてありがとうございました。何か雰囲気……昔と変わりませんね。」

「ガキのまんまだって言いたいんだろ。よく言われるよ。お前は……老けたな、門倉。」

「足かけ12年ですからね。中に気の食わない奴が居たんで、半殺しにしたら二年延びました。」

力なく笑う男は、周二の良く知る門倉ではないような気がする。月日は残酷に若さを奪い、届けられた破門状が追い打ちをかけていた。

「破門のことなんだがな……。親父に掛け合ったんだが……すまん。どうにもならなかった。頑固でさ。」

「法度を破ったのはこちらの方ですから。極道が仁義をたがえたら、犬畜生に劣っちまいます。掟を破った門倉を、きっちり破門した親父さんは正しいんですよ。」

50も半ばのせいだろうか、闊達とした雰囲気は消え、大男だと思っていた門倉は、どこか小さくなった気がする。別れた時は自分がほんの子供だったと周二は自覚した。

「しばらく、ここで暮らすか?ばあちゃんは俺に甘いから、お前の面倒位見てくれる。丁度、人手も必要だそうだ。」

「いえ。それは姐さんに迷惑がかかります。それよりも周二坊ちゃん。わたしとしたお約束を覚えてますか?」

「……ああ。褒美の話だろ?親父が何と言おうと、俺は今でもお前のやったことは、俺の気持ちを汲んだからだと思ってるからな。」

周二は門倉に酒を注いだ。香りの高い大吟醸の甘い匂いに、門倉は目を細めた。

「勿体無いほど、いい酒ですねぇ……。臓腑に染みわたります。」

心づくしの和食に箸を進めながら、ふっと門倉は真顔になった。

「今の坊ちゃんの一番大切な物はなんですか?」

「俺の一番大事なもの……というか、好きな奴がいる。今は、そいつが一番大切だ。連れて来てるから、後で紹介するな。親父が入院してた時、小児病棟にいたやつなんだ。」

「そうですか。では、坊ちゃんは約束通り、門倉にその方をくださるんですね。」

「……えっ!?馬鹿言え……っ。」

「出所したら、一番大切な物を下さるお約束です。」

周二は目をひん剥いた。




Σ( ̄口 ̄*) 周二:「それは、ないだろ……。」

 ( -ω-)y─┛~~~~門倉:「お約束です。」

(´・ω・`) 隼:「ん~~?」

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