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 純情男道 1 

ごつごつと骨ばった指が、頭上に降りてきた。

「周二坊ちゃん。しばらくの間、お別れです。」

逆光で顔は見えない大柄な男が、泣いているのは震える声でわかった。

「門倉、血の匂いがする。これからサツに行くのか?」

「はい。親父さんに背くような真似をして、申し訳ありません。若の事をお守りするのが、わたしの役目だったのですが、できなくなりました。後の事は、木本に頼んでありますから、若は……どうぞ、お元気でいてください。」

「うん……。」

「門倉は、親父さんはきっとよくなると信じてます。強い方ですからね。若も門倉がいなくなっても泣いちゃいけませんよ。」

「ばかやろう。門倉がいなくなったくらいで、俺が泣くかよっ。」

「そうでした。若は、親父さんに似てお強いですからね。」

小さくても野生の狼が、言葉とは裏腹に零れてきた涙を、ぐいと拳で拭いた。

*****

木庭組若頭、門倉宗次が、組長を襲撃した犯人を見つけ出し、警察に渡す前に血祭りに上げた。それは、翌日の新聞記事になった。
普段から他の組とのいざこざでも、決して報復を許さなかった知性派の門倉自身が、親父と慕う組長への襲撃に一番に切れてしまった。
幸い木庭組長は重傷ながらも命を取り留め、間違って襲撃を命じた方も胸をなでおろしていたが、門倉宗次だけは、鉛玉をぶち込んだ鉄砲玉へのたぎる憎悪をくすぶらせていた。
組長代理として手打ち式に出た帰り、盆に詫びにと積まれた札束を見やり、門倉宗次は静かに口にした。

「うちの組もそちらさんには……ずいぶん安く見られたもんです。木庭組の親父の命が、この程度のはした金で買えるとでもお思いでしたか……?」

門倉の視線に、相手は怖じた。媚びるように、いや、これはただの見舞金だと口にした。

「見舞金ならば、ありがたく頂戴いたします。ただ……今後、親父に何かあったら、門倉は、ここにお揃いの皆様方の腹に鉛玉をぶち込んで、はらわたを墓前に供えさせていただく覚悟でおりますので、ようくお含み下さいますよう。」

「い、いやいや、今回の事は人違いだったんだから、門倉もそういきり立たず。な。手打ち(和解)もこうして終わったわけだし。」

「そうでした。この度の手打ちは中州の叔父貴にも中に入っていただき、とんだご迷惑をお掛けいたしました。……では、これで失礼いたします。」

仲介役の親戚筋に深々と頭を下げたその帰り、襲った鉄砲玉が安堵して女の所で羽を伸ばしているのを運転手との会話で知り、門倉は顔色を変えた。単身で襲った安アパートの一室、足元で盛大に小便をちびる情けない姿で這いつくばった男を、思い切り蹴り上げた。門倉が手を下すまでもないちんけな男だったが、こんな男に敬愛する組長が撃たれたのかと思うと、どうにも治まらなかった。

「よう……?お楽しみの所悪かったなぁ……。手打ち式にも顔ださねぇで、いい度胸だな。「ごめんなさい」は、自分で言うもんだって小学校で習わなかったか?」

「ひっ……門倉さん……っ?ひ、人違いしたんだ、わ、悪かった!」

「詫びる相手は俺じゃねぇ。」

門倉の手にある銃の撃鉄が起こされ、ためらうことなく引き金に手を掛けるのを見た小心者が、縮こまった下半身を貧相にさらしたまま、泡を吹いて卒倒した。
まだ宵の口、響き渡った銃声に、けたたましく回る赤色灯が行き交い、野次馬で騒然となったころ、門倉は木庭組長の入院する集中治療室を、中庭からじっと見上る木庭周二の前に現れた。

「周二坊ちゃん。やっぱりこちらにいらしたんですね。」

「うん。あの部屋には入れて貰えないし、ガキは邪魔だから幼稚園に行けって言われるからな。ここは、時々看護婦の声が聞こえるから、親父の様子がわかるかと思って。」

「坊ちゃん、親父さんの仇はつい先ほど、この門倉が討ちましたからね。」

「……門倉……。ほんとう?」

「ええ。この手で仕留めてきましたから、安心なさってください。」

見上げた狼の子が、ぽろりと泣いた。どんとぶつかり、声を上げた。

「俺、ちびだからっ……!誰も何も教えてくれないんだ。木本にも俺が敵討つから名前教えろって言っても、相手の事、なにもいわねぇんだっ!」

「若。出過ぎた真似をしました。」

「出過ぎてなんかねぇ。俺、親父の仇も討てねぇで、すごく悔しかったんだ。門倉、ありがとう。」

門倉は年相応の顔をした幼い狼に、思わず優しい顔を向けた。この小さな手を汚すくらいなら自分が全部泥をかぶってやると改めて誓った。

「周二坊ちゃんの成長が、門倉の幸せなんですよ。親父さんと坊ちゃんの為なら、何だってできるってもんです。きっと親父さんには、こっぴどく叱られるでしょうけどね。」

「門倉、俺……。今はチビだからお前に何の礼もできねぇけどさ、いつか一番大切な物をやる。おまえがサツから帰ってくるころには、大人になってるから、絶対会いに来い。門倉の事は、死んでもぜってぇ忘れないから。」

「坊ちゃんが、褒美を下さるんですか。じゃあ、出所したら一番に頂に参ります。楽しみにしてますから。元気で、坊ちゃん。」

「門倉―――――!!約束だぞ。大人になったら、絶対借りは返すからなーー!!」

夕日の中を、大きな男は手を振って周二の元を去った。若い者を代わりに出頭させますからと、周二の新しい守り役木本も必死に止めたらしいが、門倉は笑ってけじめを付けに行った。

*****

それが10年以上も前に、木庭組若頭、門倉宗次と木庭組4代目、木庭周二の交わした小さな約束だった。
仇を討った報酬に、一番大切な物をくれてやると約束した。

時がたって、周二の一番大切な物は「物」ではなく「者」になっていた。
出所した門倉が、周二の良く知る優しい大きな男ではなくなっているなどと考えもしない。
季節は巡り、爛漫の春がそこまで来ていた。




お久しぶり~ふでっす。(*⌒▽⌒*)♪
隼と周二の新しいお話です。今回はいつになく隼ちゃんのピンチです。
見切り発車で、まだ最後まで書けていませんが、ハピエンです。
お読みいただけたら、うれしいです。

ランキング参加復活しました。(`・ω・´)拍手もポチもありがとうございます。
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コメント、感想等もお待ちしております。       此花咲耶


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5 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

(*⌒▽⌒*)♪ただいま~です。

もう少し先にしようかと思ったのですが、季節感のあるお話を上げたくてフライングです。
着地点が決まっているので、連載を始めてしまいました。
これからもよろしくお願いします。
しばらく離れていましたので、読みたいものがたまっています。
浦島太郎です。(`・ω・´)

書きたいものが書けるって幸せです。変わらない日々のありがたさを痛感しました。

2012/03/24 (Sat) 01:29 | REPLY |   

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2012/03/24 (Sat) 00:59 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

HPも覗いてくださったんですね。ありがとうございます。
場所が増えたら、いろいろすることが多くなって、まるで自分で自分の首をきゅ~と占めているような感じです。(*⌒▽⌒*)♪←所詮、どM。

隼と周二を好きだと言ってくださってありがとうございます。
今回はちょっぴり真面目な感じですが、最後はハピエンです。お読みいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。(*⌒▽⌒*)♪

2012/03/22 (Thu) 23:38 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付き拍手コメントさま

(*⌒▽⌒*)♪ただいま~!

このちん、帰ってきました~。
加筆作業は、新しい作品を書くよりも大変でした。何度、このままあげちゃおうかなぁ~と、思ったことか……。(ノд-。)

これからも、頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。(〃゚∇゚〃)

2012/03/22 (Thu) 23:33 | REPLY |   

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2012/03/22 (Thu) 21:37 | REPLY |   

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