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青い小さな人魚 終章(珊瑚の城) 

斬り付けられたスルタン・マハンメドは、白い漆喰の王国の高い塔から海へと錐もみしながら落ちた。
柔らかな水面も、高い所から落ちたらそれは固い岩盤のようになる。人間ならばひとたまりもなく絶命していたはずだった。
ヤークートの願いを聞いた波頭が、柔らかな触手を伸ばすように、瀕死のマハンメドの身体をそっとその腕で受け止めた。

「これは、六番目の王子の想い人だ。王子の願いを聞き届けるよう、すぐに海神の元へ連れて行こう。」

宰相のシャムシール(刀)を肩口で受け止め深手を負ったマハンメドの命は、自らがヤークート(サファイア)と名付けた6番目の小さな人魚王子の精を飮んでいたことで救われた。

「六番目の王子は何故、帰城されないのだ。まだ見つからないのか。」

おそらく陸のどこかに隠されてしまったのに違いないと、海の衛士はため息を吐いた。

「欲深な人間どもから守る為、海神は王子が海面に昇るのを長く許さなかったのだが…。心配した通りになってしまった。」

*****

海の王国で海神に謁見したマハンメドは、ヤークートの誓いの虹色真珠を海神の元に届けた。
末の王子が永遠の愛を誓い、虹色真珠を零したと知った海神は、王子の行方を尋ねたがマハンメドは哀しげに首を振り俯くばかりだった。

「お許しください。すぐ傍にいたのに、わたしは王子を守りきれませんでした。信じていた腹心に裏切られ、6番目の王子の手を放してしまったのです。」

そういうマハンメドの姿は、すでに海の者となっていた。褐色の肌の大きな傷はまだ癒えていなかったが、その首には海で呼吸するための鰓孔が並び、下肢は小さな人魚と同じように青い魚の鱗でおおわれていた。

青い小さな王子の思い人マハンメドは海神との謁見後、海の王国に住まうことを許され、
気の遠くなるほどの長い時間、海の王国のヤークートの部屋で、愛おしいヤークートを待っていた。
海神に魚の尾を貰い、毎夜、水面近くまで昇ると巨大な鮫となって、叶わぬまでも思い人の姿を捜した。

やがて、マハンメドが海鳥に伝えた王子の名前は、世界中の鳥たちが知る所となり、ヤークートを誘拐した奴隷商人が出入りしている王宮の名も分かった。海の生き物は皆、末の王子を愛していた。

王宮の見える入り江に、マハンメドと海の兵士たちは潜み、辛抱強く好機を待った。
そして、ついに恋人たちは最愛の半身を手に入れる。

*****

「マハンメド……ああ……あなた。」

引き離された恋人ヤークートは、散々に蹂躙された挙句、やっと安住の海の王国に帰還してきた。
傷付いたヤークートは抱きしめられ、白い大きなシャコガイの寝台に傷付いた身体を横たえた。珊瑚の回廊を走り抜けた、愛するマハンメドが姿を現した。

「ヤークート、大丈夫か?すまぬ。助けに行くのがすっかり遅くなってしまった。」

「平気です。傷はいつかのように……マハンメドの血が、ほら治してくれる……。」

傷口に垂らされた少量の血が、みるみるうちに傷を癒して行く。透明な足鰭も鱗を削られた下肢もしばらくすると元通りになった。
出会ったころの可愛らしい青い小さな人魚の姿になって、小首をかしげて微笑むヤークートに、マハンメドは思わずそっと手を伸ばした。大切な物が隠されている下肢には、官能を揺さぶられると慎ましく勃ちあがる紅色の突起があり、今やマハンメドにも同じものがあった。

「すっかり、海神の眷属になられたのですね。何というご立派で雄々しいお姿でしょう。」

ヤークートは印を触ると嬉しげに声をあげた。意を決して跪くと、おずおずとマハンメドの下肢に近付き、紅色の突起に柔らかい小さな赤い舌を這わせた。ちらと愛人を見上げる目には、まだ躊躇があったけれど頬を染めて口淫するヤークートが愛おしく、咽喉奥に貪られるものは瞬時にぐんと質量を増した。

「は……ふっ……んんっ……。」

喉の奥を塞ぐほどの肉の塊に苦闘するヤークートを眺め、マハンメドは微笑を浮かべ、人魚にも大小はあるのかなと素直に口にした。衣服を身に付けない人魚たちの生殖器は慎ましく内部に格納され、必要な時だけ外に形を表れる。屹立したそれは、自分とヤークートのものではずいぶん大きさが違っていて、マハンメドは思わずくすりと笑ってしまった。

「?……どうかなさったのですか?」と、可愛らしいヤークートが頬を染め、艷めかしくとろりと蕩けた視線を向ける。

「いや。お前のものはずいぶんと……。」

「ずいぶんと……何です……?わたしは……人の手で穢されました。もし、そのことをおっしゃっているのでしたら、わたしにはもう、あなたのお傍に寄る資格が有りません……。」

人間達の手で烈しく蹂躙されてしまった自分を、もう抱いてはくださらないのだと思い、ヤークートは涙ぐんでいた。手首に今も薄く傷の残るほどの縛めを受け、下肢もあれほどひどく傷ついてしまったのを見てしまったら、きっと誓った常世の愛も冷めて虚しくなってしまったのだろう。
ただ一人の相手と思って居ながら、ヤークートは凌辱の果てに人魚の精を王さまに与えてしまっていた。それはどうしようもなかったこととはいえ、人魚にとって焼きごてを押し付けられるほどの屈辱だった。

「……美しいわたしのヤークート。うつむいていないで、わたしをご覧。ヤークートの青い瞳に魚になった私が写っている。」

「マハンメド……わたしを愛してください。」

「ここはもう……癒えているのか?」

「は……い。」

マハンメドは、潤んでしまった人魚の小さな顔を両手で包み込むと、深く舌先を差し入れ根元に巻き付けると吸い上げた。はらはらと、満たされた思いに、誓いの虹色真珠が転がってゆく。

「存分に、愛してもいいか?」

「はい。」

「人魚となってから、お前を抱くのは初めてだが、わたしのものはどうやらお前のものとは違っているようなので心配になった。だが、ずっとこうしたかった。」

頬を染めたヤークートが、マハンメドの腰に手を回した。

「わたしも……わたしも、マハンメド……長く待ちました。ずっと、愛されたかった。あなたの容になるまでわたしを愛して……わたしのスルタン・マハンメド。」

真珠の光沢のある上半身に手を伸ばし、まるで美しい二枚貝、テンシノツバサのように二人は完璧な一対となり抱き合った。固く閉じた目蓋を縁どる睫毛を濡らし、挿入されたヤークートは青ざめた肌を悦楽に震わせた。

「あ……っ、ああっ……!」

のけぞった喉元の鰓孔が忙しなく開閉し、潤った内壁がぬるりとまとわりつき冷たい吐精を求めた。閃光の瞬間、互いの名を呼んだ。

「ああ、マハンメド……」

「ヤークート。」

薄い胸に飾られた、小柱のような薄赤い突起が色づいて紅色に輝いた。
愛の溢れるどこまでも美しい情景だった。
寄せては返すさざ波の様な快感がマハンメドの背筋を這い登る。淫蕩で清らかな青い小さな人魚に永遠を誓って、マハンメドは自由な魚になった。

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*****

人だった過去を忘れられないマハンメドには、唯一の憂いがあった。
生き別れた小さな王子は、父の亡き今、市井に生きていた。母は、新しく叔父の後宮に側女として入ったが、王子は物心つくと一人生きる道を望んだ。
宰相は自分の種だと信じていたようだったが、その姿は間違いなくマハンメドと瓜二つで、濃い緑の玉石のような瞳までそっくりだった。
戦乱のどさくさで宰相の行方は知れず、噂では白波に呑まれるのを見たとも、自害したとも言われていた。母は、あなたは「スルタン・マハンメドの正統な後継者なのです。」と告げたが、青年には顔も覚えていない父や亡国の身分などどうでもよかった。
高窓から見える、広大な深い海だけが彼の心を癒やした。

褐色の王子は何故か海が好きで、王宮に生きる貴人の道を棄て、周囲の止めるのも聞かず身ひとつで叔父の王宮を後にした。
王子の持つ唯一の財産、一粒の虹色真珠を売り払い、小さな船を買うとつり銭はそこらの物乞いにくれてやり、しばらく漁をしていた。

糸も垂れずに船だけが静かな波に揺れる時、青年の船が沖に出るだけで、魚は甲板に跳ねた。それは、漁師が海に愛されている証だった。
青年がその船を繰って漁に出かければ、波は穏やかになり、必ず船が傾くほどの大漁になる。

「どうやら、わたしは海に好かれているらしいな。」

自分の分を取り分けると、残りは皆くれてやって青年は笑っていた。誰もが、この漁師を愛さずにはいられなかった。

……漁師は、一度、沖合で人魚の姿を見たことがある。
仲の良さそうな人魚は揃ってこちらをじっと見つめ、そんな時、青年は酷く懐かしい想いにかられた。人魚は、母の持つ、太守を写したと言う焼き絵の人物に似ていた。

伯父の宮殿で、リュートをかき鳴らしながら歌っていた、吟遊詩人を思い出す。囚われの人魚が、生き別れになった恋人を恋うて歌ったのです……と詩人は微笑んだ。

「王子さま。あなたにも、いつか大切な方が出来るでしょう。」

『船に乗る懷かしいあなたに届くのならば 嘆きではなく微笑みを

いつか逢える珊瑚の回廊に あなたの姿が見えるなら

離れていても悲しくはない

海の底に咲く花は、散らずに揺れているでしょう

遠く離れていても変わらずあなたを想っている

青い瞳のわたしの元に……』

ある日。
波一つない海原で、つがいの人魚が青年に向かって手招きをした。
褐色の肌の若い漁師は、躊躇することなくひらりと船首から沖へと身をひるがえした。

それきり、猟師の姿を見た者はいない。




ここまでお読みいただきありがとうございました。

終章はずいぶん長くなりましたが、切る場所が中途半端なため、思い切って一話アップにしました。
ランキングを外れていましたのに、お読みいただきありがとうございました。
新しい作品からは、又元に戻りたいと思っています。
加筆作品でしたので、時間ができて数枚絵を描きました。
でも、新しい作品になると、時間がなくて両方は難しそうです。
(`・ω・´)でも、頑張ってみる!

近々、新連載始めます。←ほんとか~(´・ω・`) ←たぶん~ 此花咲耶

本日もお読みいただきありがとうございます。
ランキングは外れていますが、バナーを貼っておきます。村へ行くとき、お帰りの際にお使いください。

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2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> (王子である)漁師も 海の底深く マハメド父と ヤークートと 一緒に仲良く 暮らしているであろう。
> と、最後の文章を読んで 想像できる終わり方は 素敵です。

何が幸せなのかはわからないけれど、父を慕う息子もいいかな~と思いました。
大団円です。(*⌒▽⌒*)♪
>
> 此花さまの ちょいエロお伽噺の世界を 楽しかったよ~♪
> (人´ω`).ア☆.リ。ガ.:ト*・byebye☆

こちらこそ、お読みいただきありがとうございました。
人じゃない分、ちょっと書きやすかったです。ちゃんとエチかけたかな。
(*/∇\*) キャ~!がんばります~。

2012/03/17 (Sat) 16:58 | REPLY |   

けいったん  

(王子である)漁師も 海の底深く マハメド父と ヤークートと 一緒に仲良く 暮らしているであろう。
と、最後の文章を読んで 想像できる終わり方は 素敵です。

此花さまの ちょいエロお伽噺の世界を 楽しかったよ~♪
(人´ω`).ア☆.リ。ガ.:ト*・byebye☆

2012/03/17 (Sat) 16:05 | REPLY |   

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