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青い小さな人魚 (漆喰の王国)1 

昔々。
東の大国に、太守(スルタン)と呼ばれる王さまがいた頃のお話。

漁師の網に捕えられた小さな青い人魚が、スルタン(太守)マハンメド王の住む国に供物として贈られて来た。
捧げものは、まるで棺のように二重作りの分厚いガラスの箱に入れられ、外からは決して見えないように黒い布を掛けられている。運ばれて来た小さな青い人魚は網にこすられた柔肌の傷痕も痛々しく、殆ど息絶え絶えで力なく水槽に漂っていた。

「なぜ、このように弱々しい生き物の水槽に、いくつも頑丈な鍵が付いているのだ。」

不思議に思ったスルタンは、運んできた奴隷商人に声を掛けた。

「助けを呼ぶからでございますよ。太守。」と、商人は息をひそめてささやいた。

「男の人魚というのは、そう多くありません。しかも伝承によると、金色の髪を持つものは、海神の息子なのです。おそらくこの子も波間に浮かぶ水鳥のように、海神の助けを呼ぶでしょう。その声が漏れないように、厚いガラス板で囲ってあるのです。」

「そうか。人魚の声は美しいと聞く。いつかは聞いてみたいものだな。だが今は、可哀想なこの子の手当てをしよう。」

「いえいえ、おやめ下さい。そんなことをして、もし助けを呼ばれたら、国が滅んでしまいます……。」

「いやなら、すぐに国を出る事だ。」

周囲が止めるのも聞き入れず、スルタンは人魚の入った水槽の鍵を壊し、青い小さな人魚を抱き上げた。はっはっと忙しなく酸素を求めて喘ぐ人魚に、口移しに息を送り込んでやる。痙攣していた指が、静かに握り込まれると少し落ち着いて、人魚はマハンメドを見た。

「……どうして……?」

水の中に溶けた酸素を使い切っていた青い小さな人魚は、新鮮な空気を吸いほっと息を吐いた。
スルタンを見上げる、深い海の底の色は宝石のように煌めいていた。

「哀れな小さな青い人魚よ。囚われ人の苦しみは、当人以外誰にもわからぬ。ここに居る間は、誰もお前を傷つけないと約束しよう。おいで。」

スルタンは自ら弱った人魚を抱き上げると、後宮の奥へと進んだ。幾重にも重なった分厚い織物の向こうに、スルタンが愛人と眠る寝室があった。
スルタンは、そこへ水槽を運び込ませると人魚を腰まで漬け、二人きりで話をした。

「お前は、どこから来たのだ。」

「遠い北の海です。スルタン……深い冷たい海の底に、海神の城はあるのです。」

「そこにも、この国のような後宮はあるのか?」

小さな青い人形は否(いいえ)、と頭(かぶり)を振った。

「わたし達は、ただ一人の愛する人と寄り添って、生涯を暮らすのです。いつまでも常世に。」

スルタンは人魚を膝に抱き上げて、冷たい銀鱗の生えた足に触れてみた。お前にはもう、誓った相手がいるのかとスルタンは問う。
桜色の肌を染め、人魚はスルタンを見つめた。

「なぜでしょう……スルタン。わたしにはあなたがとても、寂しそうに見えます。」

スルタンは小さな青い人魚の輝く髪に、そっと唇を寄せどこか懐かしい海の匂いを嗅いだ。

「わたしの王妃は……お前の海の王国を訪ねたはずだ。数年前に……。」

「お妃さまが?でも、人は海の底では、息ができま……あ。」

それは、海に身を投げて命を落としたことなのだと、やっと人魚は気が付いた。
太守は、優しい笑みを浮かべると、人魚に今はない妃の話をした。
スルタンの名誉を守る為、敵国へと送還される船から、冷たい海へと身を投げたのだと言う。それは、北へ向かう海の上だった。寂しいスルタンの妃は、先の戦で捕虜となり敵兵から辱めを受けた。

船の上で、酒色にふける兵士たちの戯れの慰み者となった王妃は、給仕をする振りをして、刀を奪うと胸を突き、愛するマハンメドの名を呼び船の舳先から身を投げた。
後を追い共に身を投げた侍女は、海を漂っているところを助けられ、妃の最期を涙ながらに伝えると味方の兵士の腕の中で憤死した。




青い小さな人魚(虹色真珠)の前のお話になります。
人魚とスルタンの出会いの物語です。
時系列としては、(虹色真珠)が、このお話しの続編になります。
お読みいただければうれしいです。 此花咲耶


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4 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> ┃窓┃〃゜ω゜)まだかな?....┃ヵキヵキ_〆(・ω・*)┃
>
> 此花さま家に 秘かに覗きに行くほど 待ってたよ~♪

きゃあ~(*/д\*) 覗かれてた~!
待っててくださってありがとうございます。
>
> だから ゼッテェ~読むのだ!(`・ω・´)ノ ァィ...byebye☆ 

このちんも、がんばる!(`・ω・´)

2012/03/06 (Tue) 01:00 | REPLY |   

此花咲耶  

tukiyo さま

> 此花さんが書かれた童話、昔話シリーズの中でこのお話が一番好き~。

(〃゚∇゚〃) きゃあ~!好きって言ってもらいました~。
挿絵を一枚描きましたら、自分でも話が進んで驚きました。元の話は……あれ?……というくらい加筆しました。お読みいただいてうれしいです。

これからも、がんばります。(*⌒▽⌒*)♪きゅんきゅん~

2012/03/06 (Tue) 00:57 | REPLY |   

けいったん  

┃窓┃〃゜ω゜)まだかな?....┃ヵキヵキ_〆(・ω・*)┃

此花さま家に 秘かに覗きに行くほど 待ってたよ~♪

だから ゼッテェ~読むのだ!(`・ω・´)ノ ァィ...byebye☆ 

2012/03/05 (Mon) 22:25 | REPLY |   

tukiyo  

此花さんが書かれた童話、昔話シリーズの中でこのお話が一番好き~。

2012/03/05 (Mon) 21:14 | EDIT | REPLY |   

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