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タンデムシートで抱きしめて 9 

おにいちゃんとの胸躍る日々。
だけど、事件の後遺症は思ったよりも大きかったみたいだ。
あれからぼくはしょっちゅう、怖い夢を見た。
白いのっぺらぼうに追いかけられて、ぼくは泣きながら逃げ惑っていた。公園のトイレの片隅に追い詰められて叫んでいた。

「きゃー!ああっ……来ないで、来ないで。」

白いおばけには、目も鼻もないのに真っ赤な大きな口だけが付いている。
ぼくを追い詰めて腕の中に捕まえると、口の端が歪んで長い舌が出てくる。ぼくは、その口が誰のものか知っていて恐怖で泣き叫んだ。捕まったら最後、頭からかじられてしまうと知っていた。
抱きすくめられたぼくの視界には、凶器のように尖ったぬらぬらとした赤紫色の舌が迫って来て、狙われたぼくは必死に叫ぶ。

「助けて、助けて、おにいちゃ―――ん!」

結局いつも、叫んでも声は出なくて、おにいちゃんは間に合わない。だから追い詰められたぼくは魔物の「えじき」になる。
紅い口がぼくを捕まえて、嫌な言葉を放つ。

「けけっ、うまそ…。」

「きゃあーーーーっ!」

必死にもがいているけど、とうとう頭からがりがりとかじられて、口の中には嫌ななめくじが入ってきていっぱいになる。一生懸命、叫んでやっと「おにいちゃん」と、声が出た。
扉を開けて、さっそうとぼくを助けに来てくれるのはいつもおにいちゃんだった。
身体ががたがたと震え、息が止まって呼吸が苦しくなる頃、遠くの方からやっと、おにいちゃんの声が聞こえて来る。

「航太っ!しっかりしろ、航太!おにいちゃん、ここに居るから。」

「航太っ!ほらっ、目を開けて!」

「おにい…ちゃ…?、あぁ~~んっ……!」

冷や汗でびっしょり濡れて目が覚めたぼくは、おにいちゃんに必死でかきついてひどく泣いた。
おにいちゃんは泣きじゃくるぼくを着替えさせると、広い胸にすっぽりと抱きこんで、眠りにつくまでゆっくりと大きな手で頭を撫でてくれた。ぼくを触っているのが、本当におにいちゃんかどうかを何度も目を開けて確かめながら、やっと浅い眠りを得た。

*****

事件後、身体に異常はなかったし表向きは何ともなかったけど、心はずっと事件を引きずって、ぼくは酷くやつれていた。おにいちゃんがいないと、夜も眠れない。おにいちゃんはぼくがきちんと眠れるように、とうとう下宿を引き払って単車通学を始めた。
浅い眠りが続き、次第に食欲もなくなって、鏡で見ると目の下に黒ずんだ線が有る。

「可愛い顔が、台無しだな、航太。」

そんな声に、力なく微笑むしかできなくなっていたぼくを、パパもママも心配していた。病院の先生が入院を勧め、日ごとに弱ってゆくぼくを眺めて、お兄ちゃんはとうとう何か決心を決めたようだった。
ある夜、同じ夢を見て泣き叫ぶぼくを抱き上げると、おにいちゃんはお風呂場へ連れてきた。まだ半分夢の中のような気がする。

「おにいちゃん…?」

「航太。おにいちゃんが好きか?」

「うん。大好き。」

泣き叫んで汗だくになったぼくのパジャマをすぽんと脱がせると、シャワーを掛けて嫌な汗と涙をさっぱりと洗い流してくれた。

「怖いことを思い出させるのは良くないと思うけどな、おにいちゃんはどうしても航太を助けたいんだ。今のままじゃ心配でどうにかなってしまいそうだ。」

「?…航は、おにいちゃんが一緒に居るからだいじょうぶ……だよ。」

「こんなに痩せちまって……。のっぺらぼうのお化けが、航太を追いかけて来て頭っからかじるんだろう?心配で傍から離れられないよ。本当は、航太が中学生になるまでは手を出しちゃいけないと思っていたんだけどね、おにいちゃんは……夢の中でもおにいちゃん以外の誰かが航太にキスするのは許せないんだ。」

「キス…?あれは、キスじゃないよ。キスは好きな人同士がするものだって、知ってるよ。航は大きくなってもお兄ちゃんとしか、キスはしないんだよ。」

「うん、そうだな。だからね、おにいちゃんは航太にこれから大人のキスをします。」




(〃゚∇゚〃) 航太:「お、おとなのキス……?どきどき……」

恋人たちの素敵なクリスマスになるはずです。
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HPで 「Mosaic ―モザイク― 」全5話完結アップしています。
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完全書き直し作品です。
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