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淡雪の如く 40 

詩音の願いは叶わなかった。
寮の明かりが見えた時、二人は慌ただしさに気付いた。玄関辺りに多くの人影が見える。

「良太郎!」

「どこへ行っていたんだ!捜したぞ。一大事だ。」

息せき切って市太郎が走り寄り、良太郎に電報の到着を告げた。

「早く国許へ、急ぎたまえ!お父上がお倒れになったそうだ。既に厩舎から馬はひいてきてある。」

「父上が……?」

目に入ったのは「チチキトク、スグカエラレタシ」の文字。

「佐藤さま!お早く!」

「すまない、すまない、詩音。きっと力になるとたった今、約束したばかりなのに。」

「許してくれ。帰ってきたら、きっと君と大久保の力になるから!」

「佐藤さま!」

馬上から叫び、声をかけたが良太郎自身、もう気休めでしかないと分かっていた。
ふと、寮の入り口脇に所在無げに佇む是道の姿を認めた。

「大久保!」

ひらと飛び降りて良太郎は駆け寄った。
どうしても言葉を掛けておかなければならないと思った。だが、咄嗟に言葉を選ぶのももどかしく、良太郎は是道を引き寄せきつく懐に抱いた。

「あっ……。」

「いいか。大久保、大きく息をしろ。そうだ……覚えているんだろう?お日さまの匂いだ。」

「良……太郎……?」

「陽はいつも天にある。忘れるな。ぼくが傍にいなくても、陽はいつも天にある。苦しくなったり投げ出したくなったら天を仰げ。ぼくはそこにいるから。」

「それから、詩音は二度と君を裏切らない。ぼくが請け負うから、もう一度だけ信じてやれ。」

「詩音……を。」

「そうだ。詩音は、どこの誰よりも一途な君の従者だろう?深く、悔いているのもわかるな?」

「……ん……。」

ぼんやりと幽鬼のようだった是道の頬に、生気が戻った気がする。

「いいな、大久保、決して諦めるなよ!」

乗り越えられない試練を、神仏が与えるはずなど無いんだと言葉を重ねると、はっきりと是道は肯いた。
馬上から詩音にも声をかけたが、良太郎自身、掛けた言葉が気休めでしかないと分かっていた。

「必ず、戻る!」

是道の震える口が、今ははっきりと良太郎と呼んだ。

「良太郎!天を仰ぐ。だから、君は早く国許へ……!早く!」

互いに深く頷きあった。

*****

その後、良太郎は国許へとひた走り、父の死に目に辛うじて間に合った。
屋敷に詰めかけた小作人や親類縁者が、長男の帰宅を待ち構えていた。
佐藤家の嫡男として、やるべきことは多く、家長として雑多な仕事は山積みだった。そして…つつがなく葬儀が終わっても、良太郎はまだ国許にいた。
胸に強く抱き、きっと帰ると約束した脆くも崩れそうな是道の、揺れる瞳を思い出した。
だが良太郎は、自分を頼みにしている弱った母や、まとわりつく幼い弟妹を前にすると、もう一度寄宿舎に戻りたいとどうしても口にできなかった。

……良太郎は、苦渋の思いで約束を反故にした。





(´;ω;`) 詩音:「あんまりです~……」


今日もお読みいただきありがとうございます。(´

長らくお読みいただきました、「淡雪の如く」は、何とか明日完結です。
ハピエンとはとても言い難いので……(ノд-。)、絶対ハピエンじゃないとやだ~~~という方には、お勧めできないです。■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ 此花咲耶



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