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淡雪の如く 38 

老女はじりじりと部屋の片隅に追い詰められていた。

「に、庭師風情が奥さま付きのわたくしに意見するなど、許しませぬ!奥の間から出てお行きなさい。」

「あなたにお許し戴かなくて結構。早々に座敷の鍵を渡さないと、座敷牢を斧で叩き壊すがよろしいか?お大事な是道さまへのこれまでの所業、全て旦那さまに目通りしてお話しするがよろしいか?四の五の言わずにそっ首大事なら、鍵を出せ。早うっ!」

「……ひぃっ!……」

側室憎しと奥方を煽り、面白がって是道に鞭をくれていたことなどお見通しだと、庭師が重ねた。庭師と言えど詩音の父も、元は半士半農の士族の端くれ、腹を据えて啖呵を切った。
襟首を掴み、若さまの身の上に何かあったら、全て明るみに曝け出してやると半ば本気で脅し上げた。

「知らぬ。折檻など知らぬっ!」

投げてよこした鍵を拾って、詩音の父は駆け戻った。

*****

「若さまっ!しっかり!」

座敷牢の奥に倒れ込んだ是道の痛ましい姿に、医師と父は絶句した。
剥かれた白い肌に何本も爪の跡が残り、噛み傷がついていた。細い腿には縞となって血が滴り、下肢を真っ赤に染めていた。
義兄の凌辱を受けて多量に出血した是道は、意識を失ったまましばらく生死の境を彷徨った。
助けが早かったから意識さえ戻れば助かるだろうと、医師は見つけた従者をほめたが、詩音は傍にいなかった自分を責めた。
後悔にくれながら、じっと襖の外で控えて是道が気が付くのを待った。
時折、うわごとが聞こえた。

「……お、兄さ……、お返しくださ……い。鬼が……ぃゃああー……」

「若さま……。」

身分違いで入室を許されない詩音は、小さな拳で涙を拭いながら二度とお傍を離れまいと誓った。

*****

「無体な……。年端も行かぬ子供に何ということを……。」

「はい。詩音と若さまが知り合ったころですから、まだ、10になったばかりの頃でございました。」

「良く生きていたな。詩音の手柄だ。」

「はい。意識の無い日が4日も続き、わたくしも若さまが死んでしまうと思って、散々に泣きました。若さまをお守りできる強い大人になりたいと願いながら……。結局は……お守りするどころか……詩音も若さまを散々に傷付けました。詩音は若さまを裏切って、奥さまの密偵(いぬ)に成り下がったのですから……。」

やりきれなさに愕然としていた。
あの、頑なな性格の一端を理解したような気がした。




お読みいただきありがとうございます。 此花咲耶



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