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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・20 

しかし、板倉の我慢は数日しかもたなかった。

「尾花殿・・・拙者は正月に、奇襲をかけようと思う。」


まだ、堀は埋まっていなかった。

今、攻め入るのは、先陣を切る軍勢が、頭上からの攻撃を受け続けることを意味していた。


無理な攻撃は、犠牲を増やすだけだとわかっていて、板倉は膠着した幕府軍に喝を入れようとしていた。


「しかし、板倉殿。」


貴久は、もう一度止めようとしたが御書院番頭(将軍家親衛隊)の自尊心は、この地で既に尋常で居られないほど大藩にずたずたにされていた。


一刻も早く、土一揆を鎮圧せねば上様に顔向けができないと、功を焦っていた。


「では、わたくしを先陣にお加え下さい。」


大輔は、顔色を変えた。

「貴久さま。今、しばらく・・・」


「よいのだ。父上がこの命は、既に板倉殿に差し上げたのだから。」


「尾花殿・・・。」


「存分にお使い下さい。」


周囲の目も気にせず板倉は感涙し、大輔は覚悟した。


貴久様は、ここを死に場所とお決めになったのだ。


精一杯お守りして、果てるならそれも本望。

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