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夢見るアンドロイドAU 8 

可哀想なあっくんは、すんすんと鼻を鳴らしながら泣き寝入りしてしまった。
厚一郎は、涙の跡をそっと指でなぞった。
小さなころから一途に、音羽だけを思い続けたあっくんは、ほかの誰かに自分がどう思われるかあまり気にしたことがない。呪縛の中にいた頃のあっくんは、いつも周囲にいじめられて学校に行ってもたった一人ぼっちだった。

いつもめそめそしていた小さな弟が、ある日突然「あっくんは、お兄ちゃんみたいになれるのかな……」と頬を染めて聞いてきた。
鏡の前に誘って、ほら、ご覧……と声を掛けたのを厚一郎は覚えていた。

「お兄ちゃんは、アイスブルーだけどよくご覧。厚志とお兄ちゃんの目の形はそっくりだろう?ほら……。」

「うん。お隣のお兄ちゃんも同じことを言ったよ。」

大きな掌で、鼻から下とおでこを覆って「厚志は、ぼくのようになりたいの?」と、聞いてやるとこくりと頷いた。

「そうか。なら紫外線に注意して、歯列も矯正しよう。厚志の大きな前歯はみそっ歯で可愛らしいけど、矯正したほうが顎のラインが綺麗になると思う。」

「そばかす……消える?」

「頑張れば、きっとね。兄ちゃんの愛読書の赤毛のアンは、大きくなって美人になったから、厚志もきっと大丈夫。何しろ厚志は、この上田厚一郎のたった一人の弟なんだ。みにくいあひるのままで終わるわけがないだろう?お前は、兄ちゃんよりもずっと綺麗な男になるよ。きっと、何年かしたら、みんなが振り返るだろうね。」

「そ、そうかなぁ…。」

兄の予言通り、あっくんは世間の人が振り返るほどの美人になった。
きらきらと期待と興奮で、輝いた弟の翠石の瞳を兄は覚えていた。それからしばらくして既に発症していた厚一郎の病は、急速に重症化してしまい、日本を離れて治療法の進んだ米国で闘病に専念することにしたが、事態は悪くなるばかりだった。
もう、移植しか助かる道がないと医師が匙を投げた時、兄は半分人生を諦め恋人に全てを話した。その時、ルシガは厚一郎を強く抱きしめたきり、何も言わなかった。
諦めの涙にくれる病床の兄の傍にやってきて、小さな手で自分の手を取りお腹に当てた可愛い弟。

「あっくんの、はんぶんこしよう。あっくんの肝臓、お兄ちゃんに半分あげる。早く大きくなるから、待っててね、お兄ちゃん。あっくんとお兄ちゃんはすごくよく似ているんだって…だから、大人になったら手術出来るだろうってお医者様が言ってたよ。」

「厚志……でもね、このお腹にすごく大きな傷が残るんだよ。厚志の大好きな日本のお兄ちゃんが、びっくりするかもしれない。それでも平気?」

「お兄ちゃん…はきっと、そんなこと気にしないよ。だって、生まれたばかりのひよこみたいなあっくんに優しくしれくれたんだもの。頑張って綺麗になったら、日本に会いに行く。手術の前に綺麗になったぼくを見てもらう……。だから、おにいちゃんは病気に負けないで、あっくんが大きくなるまで諦めないで戦って。」

「厚志……。」

小さなあっくんを抱きしめて、諦めないで戦うと厚一郎は誓った。

あっくんは、あのころから何も変わらない。大学でロボット工学が面白いんだと話ながら、移植費用が高額だと知ると、少しでも賃金の高いアルバイトに精を出した。
思いがけずモデルとして認められてからは、何の相談もなく学校を退学してしまった。
モデルの方が楽しいからと、笑っていたがあっくんのベッドサイドには今でもアシモフの本がある。
ずっとみっともないと思って育ったせいか、あっくんは綺麗だと言われるのがすごく好きだ。デザイナーのささやく甘い言葉に、きっとあっくんはその向こうに音羽を見ている……。

「お休み、厚志……。」

アンドロイドAU は、目尻に涙を溜めて幸せな夢を見ていた。




(´・ω・`) 可哀想なあっくん、泣き寝入りしちゃったよ~……

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