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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・14 

「この、愚か者っ!」


謹慎の解けたお福が、屋敷に来た時、熱のある大輔は濡らしただけの手ぬぐいを、そうっと眠る貴久の額に乗せようとしていた。

無論、おびただしい滴で襟元も濡れていた。

「あっ、母上。」


叱られて取り落とし、主人の上に手桶の水もこぼしてしまった。


「何と言う・・・この不器用さは何としたことやら。」


「何をおっしゃいます。母上。」


「わたくし、盛田大輔、尾花貴久さまの一の家臣となってございます。」


「・・・そのような・・・」

お福は、呆れた。


「貴久さまに、お聞きになってください。」


濡れ鼠になった貴久は、親子の会話に苦笑していた。


「・・・せめて、紐がきちんと結べるようになってからおっしゃい。」



確かに、大輔の行った着付けは、誰が見ても酷かった。


襟さえまともに合っていない。


自分の世話は、大輔全てに任せると、主人が言うものは仕方がないが、何しろ同じ年でも大輔は貴久よりもかなり背が低い。


言うなら、成長は遅く子供っぽかった。


主人を抱えて風呂に行くときなど、まるで浄瑠璃の人形を引きずりながら運んでいるようで、笑うわけにも行かず仕方なく皆、見て見ぬ振りをすることにした。


ただ、大真面目な大輔に寄りかかっている貴久も不安で、怪我の功名とでも言おうか、腕の力は徐々に戻ってきているようだった。


「なれぬことゆえ、仕方ない。」


「叱るな、お福。あれで大輔は一生懸命なのだから。」


大輔をかばう主人に、お福は笑った。


「貴久さまは、大輔に甘うございます。」


「もっと、厳しく叱ってくださらないと。」




しばしの安息。



やがて、大輔の父を烏帽子親にして、静かに元服を終え、二人は揃って大人になった。





作者注:幼名は必要ないと思いましたので、元服後の名前で統一しております。




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