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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・12 

組み敷いた大輔の下で、若い主人は悲痛に呻いた。


「このような身体で、生きて何になる。」


「兄上の、・・・お家の荷物になりとうない・・・」


泣き顔を見せまいと、貴久は大輔から目をそらした・・・


数日の内に、自分の体のことを知り、病みつかれた貴久は、すっかり生きる気力を失くしていた。


憔悴しきった頬はこけ、力強かった手首も簡単に大輔が掴めるほど細くなっていた。


今は喉を突こうにも、力さえ入らない。


そして、大輔は、粗相で濡れた夜具に気が付いた。


朱で掃いたように、横を向いた貴久の頬が染まる・・・


「・・・わたしは、もう赤子同然なのだ。」


「この身を不憫に思うなら、もう楽にしてくれ・・・」


大輔の大きな瞳から、涙が溢れた。


下半身の自由が利かなくなるとは、そういうことなのだ・・・。

誰よりも馬術が上手く、聡明で快活な貴久から、奪われたものは大きかった。


主従の身も忘れ、貴久と転げまわって遊んだ幼い日に、些細なことで喧嘩して泣いたときのように、大輔は横たわる貴久の胸に、顔を埋めて泣いた。


ひとしきり泣きじゃくった後、大輔はこういった。


「では、貴久さま。大輔が先に参ります。」


「貴久さまがこの世に居ないなら、わたしも今生に何の未練もございません。」


大輔は、鋏を握った。

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