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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 28 最終話 

全てを包み込む北国の雪が、いつかの幼い犠牲者たちを包み込んだように、優しく降り積んだ。
地吹雪となって、ごうごうと逆巻く雪は目も開けていられないほどの量となり、すぐ傍に宿があるのにそれすら考えられなくなっている。
おれは六花を抱いているのか、三崎を抱いているのかどうか分からなくなっていた。

「六花。共に参ろう。」

「源七郎さま。常しえにお傍に……。」

おれの中から、おれじゃない低い声が響く。
嬉しげに胸に掻きついた六花を、今度こそ放すまいぞと源七郎は、巻いた腕に力を込めて抱きしめた。
ああ、嬉しい……と、六花が細い声で啼いたのが聞こえたような気がする。

「三崎っ!」

気を失った三崎とおれは生身の人間で、雪の精や霊魂のように氷点下の世界では生きられない。
六花は……正しくは、転生した六花が過去に残した思いは、今こそ最愛の人を手に入れてうっとりと源七郎…正しくはおれの中から出てきた眠っていた過去の封印した思い…ああ、ややこしい。
とにかく巡り合った二人は、今度こそ離れ離れにならないように、雪の中で手を取りひしと重なり合っていた。
おれの頬が濡れるのは、源七郎の思いだ。

おれは大声で、腕の中の三崎を呼ぶ。決してこのまま、雪の中で三崎を失うわけにはいかなかった。
おれの中に、深く眠っていた源七郎。三崎の中に転生しながら、思いだけは彷徨っていた六花。三崎がどこか子供っぽかったりするのは、あるべき魂の部分が欠けていたからなんだろう。
どちらもおれと三崎でいながら、同じ人格ではなかった。
互いに思いあう源七郎と六花を見つめているうちに、二人の輪郭がぼやけてきた……。
凍りつく寒さの中、夢か現(うつつ)かも思考できなくなって、視界一面真っ白の世界に染められてゆく。
微笑む六花の唇が紅い花だ。
雪に散る紅い花……。

「ああ……六花……」

*******

温泉宿の庭先に倒れ込んでいた二人を発見したのは、朝食を運んできた仲居だった。まるで広い庭先で遭難したような形になっている。雪の上の足跡を辿り、おれたちを見つけた。

早朝から温泉宿は医者を呼ぶ大騒ぎとなり、二人そろって直腸に体温計を突っ込まれた後、仲良く軽い低体温症と診断された。
暖かい重湯を貰って飲み、絶対安静を言い渡された。
道標で会った二人の話などすると、意識障害と思われそうで口にするのは止めた。

「お客様。いったいなんだって、吹雪の朝っぱらに、あんなところにいらしたんですか?」

「すみません。雪の結晶を見るなんて滅多になかったものですから……つい。ほんの一ミリ位だったんですけど、草の上にちゃんと六角の結晶が見えて、二人で夢中になってしまいました。六花って言うんですね。」

「ああ、雪の結晶をご覧になってたんですか。あれは初めて見たときは、わたしもうれしかったですねぇ。小さくてもちゃんと六角形だったのを、夢中になって見たのを覚えてますよ。明け方は冷えましたからね。このあたりでも、今日みたいに冷えるのは珍しいんですよ。」

「本当に、ご迷惑をお掛けしました。」

浴衣の上にコートを羽織って、倒れ込んだ三崎を抱き包むようにして、おれは雪だるまになっていたそうだ。
暖かい飲み物をもらい、脇と鼠蹊部に湯たんぽを当ててもらって、丸一日の安静を言い渡されたがおれ達はすぐに元気になった。六花と源七郎は庭先の道標の側に佇み、互いに見つめ合い幸せそうにしていた。

「三崎さま。柳さま。深雪さんのお父様がお着きになりましたよ。」

「え!?…なんで?」

「パパが…?」

慌ただしい足音に、思わず身構えた。

「みぃた…深雪!どうしたんだ?大丈夫なのか!?」

「…パ…親父。なんで、ここに居るの…?」

「連絡しろと言っただろう。約束を守らないから、心配で一睡もできなかったじゃないか。明け方になって、宿の主人にみぃた…深雪が雪の中に倒れていたと聞いて、パパはもう…生きた心地がしなかった。」

「あの…その割に早かったですね。」

「君と口を聞く気はない。」

「パパ!先輩に失礼なこと言っちゃだめ!怒るよ。」

三崎に叱られて、しぶしぶパパ…副社長はおれに向き直った。

「もう二日、有給休暇をくれてやる。ゆっくり休むことだな。」

どんと背中を押されるような気がした。雪がやんで晴れた外で、六花が笑いかけた。
耳元で源七郎の声がした。

「あれは、六花のご母堂だ。母上は、女子では息子を送り出すしかないと嘆いて居られたから、転生して男になったのだな。」

「げっ…あれが、六花の母親…?」

副社長には、六花と源七郎の姿は見えないらしい。細く窓を開けたら、縁の傍に六花が寄ってきて「母上。御久しゅうございます。」と手を付いた。
おれが覚えているのは、きりりとした日本髪に歯に鉄漿(おはぐろ)を付けた、女ながらも文武両道、小太刀と薙刀の名手だ。

「我の前で、母上は常に毅然としていたが、本当はとても心優しい方だった。だから今も、このように…転生されても傍で愛しんでくださるのだ。母上、有り難いことでございます。」

「……この愛情表現は、いろいろ間違っているとは思うけど…、そうか、あの過保護っぷりは子供を二度と失うまいとしてる母性の現れなのか。」

「母上様、どうぞもう楽におなり下さい。六花は母上の元で養育されて、この上ない果報者でございました。」と、六花は副社長の肩を抱いた。六花の涙が、はらはらと肩に散る。まだ頑是ない嫡男を、帰るあての無い戦場に送った母の心中を知る由も無いが、あの過去を知れば無理もないと思わず納得をしてしまう。
だからこそ、母は六花の死を聞き迷うことなくすぐに後を追った。
彼岸でいとけない六花が迷わぬように。寂しい黄泉への道を一人で立ちすくみ、泣くことが無いようにと……。

「頼むから……心配させないでくれ。馬鹿な親だと自覚はあるんだ。…だが、いつも深雪が遠くへ行ってそのままいなくなるような気がしてならない。いい年をして情けないが、どういう訳か、昔から深雪が傍にいなくなるといたたまれなくなるんだ。」

「副社長。今回のことは本当に申し訳なかったです。以後、十分注意します。三崎のことは何が有っても必ずおれが守ります。本気で誓います。」

副社長は目を赤くして頷いた。
六花は三崎の額に自分の額を押し付けると、三崎に母の思いを告げた。

「パパ!」

三崎は迷わず、父親の広い背中から首に手を回した。

「心配かけてごめんね。パパ、みぃはうんと子供のころから…ううん、生まれてくるずっと前からパパの子供だったんだよ。何が有っても、ずっと好き。みぃはずっとパパの事、愛してるから。親孝行するからね。」

「みぃたん~!」

みぃたんとパパは傍目には、まるで親離れ子離れの出来ていない馬鹿な親子だったろうが、おれは泣けた。
副社長には、最愛の息子が変わらずに居てくれただけのことだったのかもしれない。「六花」と三崎を呼ぶことは最後までなかった。
雪男は、今冬はまだ雪の中で精霊として過ごすのだろうか。聞きそびれてしまったが、巡り合い想いを伝えあった今となっては些細なことなのだろう。

「六花……。」

「源七郎さま……。」

おれは、迷わず三崎を抱きよせた。
三崎が感じて、ふるりと薄紅色の細い茎が揺れると、甘い吐息が漏れた。

「三崎が気になったはずだ。ずっと昔から、こうなるのは運命だったんだな。」

「先輩…愛してね…。いっぱい愛してね。」

雪が激しくなった。
…駄目だ、今日は安静にしとかないと。…がまん。

後日。

何故か源七郎はおれの中で眠ることをせず、対の六花と共におれの部屋にいた。
現代の寝台は柔らかいが、肌触りが良いと言い、二人は空白を埋めるように、片時も離れようとしなかった。
春になって氷が緩めば六花はどうなるか分からないが、どんな形になっても二人の気持ちは変わることはない。
長い時間をかけて結実した、あの日の思いを眺めるのはいい気分だった。

首を落とした小さな侘助の紅い花弁に、雪が降る。
一片(ひとひら)の雪が舞う夏に、命よりも大切な思いがあると知った。

ただな。
…布団の上に、霜柱作るのは止めてくれ、六花。
おれと三崎が、風邪ひくから。




突然パソコンが、バカボンになりました。
インターネットにつなげなくなって、焦りまくりました。
最終回ですって、豪語してしまったのに次の日になってしまった。ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!
パソコンのあんぽんたん~~!

( ゚д゚ ) ジーッ 三崎:「あれ…?先輩とぼくのエチは?」

(〃ー〃) 此花:「えと…パソコンがつながらなかったから・・・。」

( *`ω´) 三崎:「む~」

■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ 「あう~、すまぬ~!」

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4 Comments

此花咲耶  

tukiyo さま

> 最終回お疲れ様でした~~~。

お読みいただき、ありがとうございました。

> 感動と笑いとほのかなえっちをありがとう~ww

本人的には、かなりの濃厚エチのつもりでした。中々むつかしいです。

> みぃた~~~ん、可愛い~。
> また、みぃたんとの甘々な後日談を読ませてもらいたいです。

ちょっぴり、番外編を書きました。甘々のカップルになっているでしょうか。

> 六花と源七郎がずっとふたりのそばにチョロチョロいても面白そ~。

二人して雪の精(雪男)となり、冬になったら人里に下りてくるのも面白そうです。
おお~~、ちょろちょろするのも、面白そうです。(〃▽〃)

(*⌒▽⌒*)♪いつかそんなお話書きたいです。
コメントありがとうございました。うれしかったです。

2011/09/17 (Sat) 02:02 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメント様

霜柱のベッドは、冷えて嫌ですね~(〃▽〃)
何とか幸せな感じに終われたかなと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
現代ものというには、あまりに時代がかってますね~
(*⌒▽⌒*)♪コメント、ありがとうございました。

2011/09/17 (Sat) 01:58 | REPLY |   

tukiyo  

最終回お疲れ様でした~~~。
感動と笑いとほのかなえっちをありがとう~ww
みぃた~~~ん、可愛い~。
また、みぃたんとの甘々な後日談を読ませてもらいたいです。
六花と源七郎がずっとふたりのそばにチョロチョロいても面白そ~。

2011/09/16 (Fri) 08:28 | EDIT | REPLY |   

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2011/09/16 (Fri) 07:43 | REPLY |   

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