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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 19 

「リツカ…。」

放心したおれは、背後の気配に気が付かなかった。
雪男はほんの少量の温い水になり、やがてすぐに蒸発してしまった。雪男の痕跡はもうどこにもなかった。
とん…と、背後でかすかな音がして、やっとおれは我に返り振り返った。

「あ、三崎…。」

「先輩。あの…あのね、約束のお土産持って来たんだけど、遅かったみたいですね…。あの人、消えてしまった…んですね。」

「ああ…。六花が溶けた所を、見たのか。」

三崎はこくりと頷いた。
このとんでもない状況を見ても、取り乱さないでいる三崎を不思議に思う。
どこから見ていたのか分からなかったが、三崎もまた涙ぐんでいた。おれは、三崎に雪男と出会ってからの話をした。三崎は一晩中、黙っておれの話を聞いてくれた。時折、零れる涙を手の甲で拭いながら…。

「儚げな人だったけど…本当に雪の精だったんですね。もう、逢えないんですか?」

「う~ん…、どうなんだろうなぁ。西の山に峰雪が積んだら…って、最後に言っていたが、あの山に雪が積もって白くなったのって数年前の大寒波の時だけしか記憶にないぞ。三崎は知っているか?」

「子供のころからあの山は良く見るけど、雪が積もってるのって見ませんね。大体、ここの所ずっと暖冬で、東北は豪雪でもこのあたりって、殆ど雪なんて降りませんもん。」

もん…って、23歳の男が言うな、三崎。こっぱずかしいぞ。
二人で思わず、深いため息を吐いた。
三崎は落ち込んだおれを励まそうと、やたら明るく振舞っていた。持って来たお土産の人形焼を食べましょうと広げ、茶を淹れてくれた。片隅に投げ捨ててあった、香典返しの安物の茶葉が何故かひどく胸にしみる。三崎を見ていると、何となくちびの桃太郎が浮かんだ。

「もしね。雪男(ゆきお)さんが帰ってきたら、先輩はうれしい?ぼくは、ちょっと複雑だけど。」

「うん?なんで複雑?」

「だって、雪男さんと先輩、これから遠距離恋愛みたいなものでしょ?今は、こうして先輩と居られるけど、雪男さんが帰ってきたら先輩は、きっとぼくのことなんて見向きもしなくなるのに決まってます…。先輩は、雪男さんと仲良くなって、きっと…ぼくは都合のいい身体だけの男になってしまう…。すん…。」

想像だけで涙目になった三崎に、おれは思わずぷっと吹いた。

「身体だけの…って。キスしただけじゃないか。それに遠距離恋愛って、雪男とは昨日会ったばかりだぞ。」

「恋愛には、時間も理由も要らないです!(`・ω・´)」

「それはそうだけど…。じゃあ、おまえとおれは、どんな関係になるんだ?」

「ぼくは、先輩の出張先のキャバ嬢の扱いかなぁ…あ、ちょっと、悲しくなってきた。先輩、ぼくを捨てないでね。」

その上目づかいをやめろ、三崎。下半身の暴れん棒が、ちょっと成長したぞ。お前に挨拶したがってるじゃないか。傷心のおれを何とか励まそうと、そして他所の男(雪男)に色目を使った(?)おれの心を取り戻そうと、三崎はどうやら身体を張ることにしたらしい。
おれを覗き込んだ三崎の目が濡れて、じっと見つめていた。
全身でおれを好きだと、言っていた。

「先輩は、ぼくのね…ファーストキスの相手だったんですよ。とても、激しかった…覚えてます…?」

「え…?三崎とおれ?あ…れ、激しいって、男とキスなんてした覚えはな…い…ぞ?」

「ひどい、先輩。ぼく、あの日から、ずっと先輩の事だけを見てきたのに。本当に、好きだったのに…忘れちゃうなんて…う、うわーーーーーんっ…!」

え~~~っ!?何、この展開。
今一瞬、頭の中で三崎とセクスする準備を始めた所だったのに。(人並みに、知識はあっても実践したことはないから、シュミレーションが必要だ。)
記憶にないことを責められておれはパニックになった。
だから、同性とこすりっこしたことはあるけど、初体験は女だし…いや、そんなことはどうでもいい。いつ、キスしたんだ、おれ。…というか…「それ、本当に相手はおれだったのか…?」
あっ、しまった。絶対言ってはいけないことを口にしてしまった。

「ひ、ひどいっ!先輩のばかーーーーっ!!」

三崎はおれの頬を、ぐ~で殴り去って行った。

「え~ん…。」

「三崎―――っ!!」

何で、こうなるの!?←欽ちゃん風に。




(´・ω・`) 遅れました~、すまぬ~

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2 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメント様

六花はどうしてるんでしょうか・・・←聞くな~

現実世界では、三崎と柳の恋愛で盛り上がりそうです。
雪男を何とか幸せにしてあげたいです。
コメントありがとうございました。もうすぐ、クライマックスです。がんばります(〃ー〃)

2011/09/07 (Wed) 00:05 | REPLY |   

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2011/09/06 (Tue) 21:18 | REPLY |   

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