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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 2 

苛々した気持ちを持て余し、足元に落ちていた空き缶を軽やかにつま先で思い切り蹴りとばした。元はサッカー部だ、目指す植え込みに見事に命中…したはずが…「ぐっ!」と、鈍い音がした。
やばい、人が居た…?

「…う…っ」

「うあっ!すみませんっ。大丈夫ですか。」

ゆっくりと蒼白の顔を向けた少年…いや、青年(かな?)を見て、一気に酔いは弾け飛び散った。街燈の明かりに照らされた、白い顔の唇に滴る一筋の血が見えた。おれが蹴とばした空き缶が直撃したのだろう。
植え込みの側の一段高くなった煉瓦の上に、腰かけていたらしかった。

「大事…ない。何とも…」

がくりと身体が傾いたのを、何とか石畳に落ちる前に拾い上げた。抱き上げて、身体が氷のように冷たいのに気が付いた。ショックで貧血でも起こしたのだろうか。大丈夫かと声を掛けるが…大丈夫じゃないから倒れたのに決まっている。

「やべ…。取りあえず、家に運ぶか。」

初めて会った男の面倒を見ようと思ったのは、酔っていたせいもあったのだろう。ひょいと抱え上げた長い髪の男は、恐ろしく軽かった。ちょうど、でかいダンボール箱を抱えたら、中身が空っぽで拍子抜けするような感じだった。
肩に乗せ上げ、セメント袋を運ぶように二段飛ばしで三階まで上がった。部屋の掃除をきちんとしておいて良かったと頭の片隅で考える。抱えた青年の余りの冷たさに、不自然な違和感を感じながらも、責任を感じて介抱しようと思った。
ことによるととっさに医者を呼ぶべきだったかもしれないが、俺はその時、思考力が欠落していた。とにかく部屋へ運んで、冷え切った青年を暖めなければと急いだ。
寝台にそっと下ろして覗き込んだら、余りに白い雪の肌が、明かりをつけていない夜目に浮かぶようだ。

「すごい…。雪白(せっぱく)の肌だな。北国生まれなんだろうな。」

おしぼりを作って来て、口の端に流れる薄い血を拭いた。ん…と、小さく呻く。
驚くほど小さな顔だ。華奢な作りに思わずじっと見惚れるほど、男の顔は整っていた。酔いの残る頭で風呂の準備をし、血の気のない顔を近で覗き込むようにして、そっと鼻の頭に触れないように手をかざしてみる。
ふっと、吐息を感じた。

「良かった、生きてる。」

ぼんやりと異常に冷たい青年を、早く暖めなければと思っていた。いそいそと新妻のように甲斐甲斐しくタオルやら着替えやらをそろえるうちに、会社でのトラブルなどどうでもよくなっていた。ささくれた気持ちが、妙に落ち着いてゆくのを感じた。
湯の温度を確かめばしゃと掬って顔に叩きつけた。

*******

部屋に戻ると拾ってきた青年は、気が付いて寝台に浅く腰を掛けていた。

「…大丈夫か?悪かったな、むしゃくしゃしていて思いっきり蹴った缶が、君に当たったんだ。傷に…なっていないか?痛くないか?」

ゆっくりと顔を回して、青年が顎をあげる。

「良かった、まだ少し赤いけど痕にはならないようだ。その顔に傷を付けちゃ申し訳ないからな。」

美形の男を前にして、自分でも信じられないほどの饒舌さに笑える。きっと残った酒のせいだと心の中で言い訳をした。

「倒れたのは・・・季節のせいだ。その方のせいではない。」

「は・・・?」

「時が満ちれば、滅するのはわが身の身上と決まっておるのだ。その方が気に病むことはない。」

おれは、後ずさった。

「が、外人さん…?」

に…日本語がわかりません…?

やばす・・・。





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5 Comments

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

鍵付きコメントさま
きゃあ~、はじめましてですね!(*⌒▽⌒*)♪
お読みいただき、ありがとうございます。

江戸人情もの、素敵ですね~、鬼平犯科帳ですとか、陽炎の辻ですとか、此花は過去のテレビの時代物もとても好きです。
本がおうちにあふれていたら、資料を探さなくていいから羨ましいです。
前作は長崎丸山だったので、吉原との違いも入れたかったのですが、長崎弁と戦って…負けました。(ノд-。)

袖振新造に遣手・・・おお~、さすがにお詳しいです。(`・ω・´)

> 今回も「大事ない…」が武士言葉に思うのですが、白皙の麗人は一体どこから来た人なのでしょう。

おお~、いいところをついてくださっています。これから正体が徐々に明かされてゆきます。はい、 現代ものです。
油断すると、つい時代物を書きたいな~と思ってしまいって軌道修正します。リーマンのはずがいきなり離職したのでそこを何とかしないとっ!

> 続きを楽しみにしています。

ストック無しで始めてしまいましたが、プロット通り着地点に向かいます。コメントありがとうございました。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
うれしかったです~。(*⌒▽⌒*)♪

2011/08/19 (Fri) 19:51 | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントCさま

時代錯誤な美青年のギャグが思いっきりスベって転んで、周りを凍り付かせる話です!(`・ω・´)

嘘です~(*⌒▽⌒*)♪
ロマンチックなお話になる予定です。

楽しみに読んでいただけるようにがんばります。
大人の登場人物ばかりですが、此花、大丈夫なんだろうか・・・(´・ω・`) ショボーン
コメントありがとうございました、うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/08/19 (Fri) 19:47 | REPLY |   

此花咲耶  

拍手コメント様

お読みいただきありがとうございます。
思いっきりちぐはぐなかみ合わない二人にしたかったのです。
良かった~、くすっとしていただけたら、大成功です。(*⌒▽⌒*)♪
短編のはずが、思ったよりも少し長めになりそうです。
・・・苦手な現代ものですが、がんばります。(`・ω・´)
コメントありがとうございました。うれしかったです。(〃▽〃)

2011/08/19 (Fri) 19:43 | REPLY |   

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2011/08/19 (Fri) 19:41 | REPLY |   

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2011/08/19 (Fri) 17:30 | REPLY |   

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