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Archive: 2018年05月  1/1

愛し君の頭上に花降る 13

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視線をさまよわせた秋星をその場に残し、祥一朗は先程の洋装店に戻って、車の手配をした。祥一朗にとって秋星は、肌を合わせただけの情事の相手というだけではなく、これまで手の内から失ってきた愛する者達が、目の前で具現化したような気がしていた。肉親の中で、ただ一人、自分を兄と盲目的に慕ってくれた妹も今はなく、大切に思って来た忘れ形見もすでに自分の手を必要としない。不運にまみれた儚げな横顔を持つ、白皙の美青年...

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愛し君の頭上に花降る 14

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祥一朗は帰宅後、二人を部屋に案内した後、最上家令の部屋まで出向き勝手を詫びた。「最上さん。急に客を招くことになってすまない。厨房にも余計な手間をかけさせてしまった」「いいえ。ご心配には及びません。そのくらいのご用意は、いつもできておりますよ。甲府から届いた葡萄酒も冷えておりますから、後程お持ち致します」最上家令は静かに笑顔を浮かべていた。偶然を装い、望月医師と結城青年が出会うように仕向けたのは、正...

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愛し君の頭上に花降る 15

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夜風に冷えた首筋に唇を這わせ、シャツを開いて恋人の赤く尖った小柱を吸い上げると、秋星はふるっと身震いした。奈落の底で喘いでいるとき、おそらく生きる縁(よすが)となったはずの彼の存在。辛すぎる日々、生死の淵でもがく秋星に、生きるように笑いかけたのは瀬津の幻影だったに違いない。汗ばんだ額に乱れた髪の一筋を、そっと払ってやった。「瀬津君は、夜空を見上げるたびに、秋星を思い出していたと言ったの?」「秋の夜空...

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愛し君の頭上に花降る 16

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部屋に残された秋星は、夜が明ければ荷物をまとめて屋敷を出て行こうと思った。祥一朗に別れを告げられた以上、このまま鳴澤家に逗留する理由がない。自分は祥一朗の愛妾となるべく、この家に来たのだから。祥一朗と別れた詳細を報告するために最上家令の部屋を訪ねた秋星は、再び涙することになる。「そうですか。ご自分から別れを切り出されましたか……」「はい。あの方は仕組まれた出会いの事も何もかもご存じのようでした。瀬津...

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愛し君の頭上に花降る 17

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秋星との別離に傷付いた祥一朗は、自室に引き籠り、家令の心配をよそに毎夜、葡萄酒を呷って(あおって)いた。どれ程飲酒しても、酔えなかった。元々、それほど酒に強い質ではないし、酒が過ぎて不始末を起こしたことも一度や二度ではない。いつか庭師ともめた時、しっかりするようにと最上家令に釘を刺されてから、飲酒は控えていたのだが、さすがに秋星との別離が堪えていた。抱き合って眠っていたときには、狭いと感じていた寝台...

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愛し君の頭上に花降る 18

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季節は移り、残暑で気だるさの残る朝、誰かの気配に気づいた祥一朗は、ゆっくりと目を開けた。大きな黒目勝ちの瞳に、涙を湛えた少年が唇をかみしめて枕辺にひざまずき、祥一朗を見つめていた。「これは夢なのかな……君はいつかの……」「旦那さま。お会いしたかったです……」そう言えば、別れ際、この子の名前を聞いていなかったと、体を起こした祥一朗はふっと苦笑いを浮かべた上野の駅で、四国に帰る少年に切符を買ってやったのは、...

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愛し君の頭上に花降る 19 【最終話】

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困り果てた祥一朗は、助けを求めるように、扉の傍に控えていた最上家令を見た。最上家令は一瞬躊躇したが、やがて祥一朗に向かって口を開いた。主人の元に輿入れしてきた病身の美しい花嫁の、まるで花嫁道具の一つのようにして鳴澤家にやってきた青年の本質は、あの頃と変わっていない。変わっているとしたら、恋を失って以来、すっかり臆病になってしまった事くらいだろうか。「わたくしが口にするのはおこがましいと存じますが、...

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愛し君の頭上に花降る 20 【恋人たちのその後】

誰が知らせたものか、瀬津の元で幸せに暮らしているはずの秋星が、すっかり面やつれして見舞に訪れたのは、祥一朗が本復してしばらくたっての事だ。青ざめた頬で、秋星は祥一朗の枕辺に立った。「……お怪我をなさったと聞きました。顔を出せた義理ではないのですが、どうしてもお詫びを言いたかったのです……もしかすると、ぼくが……」「ああ、心配させて悪かったね。……情けない話だろう?葡萄酒に酔って医療鞄をひっくり返して怪我を...

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