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Archive: 2017年04月  1/2

真夜中に降る雪 5

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白い天井が、眩しい……消毒薬のにおいが鼻を突いた。動こうとして、全身が拘束されているように固まっているのに気が付いた。「いっ……たーー……っ」「あ、里中さん。気が付かれましたか?」微笑む女性の格好に、自分が病院のべッドにいるのだと気が付く。左足の先がかゆくて、掻こうとしたら固いギブスに当たって驚いた。「ぼくは……」「すぐに先生を呼んできますね」「あ、落ちたんだっけ……」全治三ヶ月の、左大たい骨と踵(かかと)...

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真夜中に降る雪 6

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面会謝絶が解けると同時に、同僚は次々見舞いに来た。バスケットに山のように料理をつめて、身を挺して助けた彼女もやってきたが、春美はその日、彼女に別れを告げた。彼女は詫びを言いたかったようだが、春美はさえぎった。「今回のは、単なる事故だよ。だから、自分のせいだなんて、思わないで」「でも……」「ごめんね、このまま一緒に居ると君が看病しているうちに、ぼくへの同情を愛情と勘違いしそうなのが恐いんだ。だから一度...

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真夜中に降る雪 7

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じっと見つめるのは、春美の好きな白球を追ってた頃の真っ直ぐな瞳だった。行く手にフェンスがあっても、決して畏れず怯まずボールに飛びついていた野球少年。どんなに望んでも、決して春美を見てはくれなかった。振り向くことなく、ドアの向こうに消えた……「ずっと、おまえのこと見ていたよ」「嘘だ!」嘘だと言い切られて、ほんの少し聡一の顔が曇った気がする。「……高校のときからずっと見ていた。いつか春にきちんと謝って、本...

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真夜中に降る雪 8

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おぶった背中の春美に向かって、前を向いた聡一が声をかけた。「春。何を食う?何でもおごってやるぞ」「この格好で、歩き回るのはごめんです。そこの、中華で良いです」ラーメンが来るまでの間、聡一はこれまで春美にしなかった話をした。春美は黙って話を聞いた。伸びたラーメンの味は、前に食べたときよりもひどくしょっぱい気がする。春美はやたらと水を飲んだ。「あのな、春。俺は、親の都合で高校二年のとき、親戚と養子縁組...

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真夜中に降る雪 9

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『里中?無事なのか?足は大丈夫なのか?今どこだ?すぐ迎えに行く』「孝幸……あの、ちょっと落ち着いてくれないか。大丈夫だから」『あ……ああ、悪い。連絡がつかなかったから、俺、悪いほうばっかり考えて……心配でおかしくなりそうだった。って、言うか。何で、電話一本入れないんだ!何度も掛けているのに』「ごめん、孝幸。外にいたから、着信に気づかなかったんだよ」『そうか……大体、里中は呑気すぎるんだよ』ものすごい勢いで...

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真夜中に降る雪 10

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「里中――っ!」目が合うなり、飛び掛らんばかりの孝幸がいた。松前孝幸は、白い息を蒸気のように吐きながら、必死で春美を探していたらしかった。連絡が取れないのは、きっと動けなくなっているからだろうと、駅周辺を当てもなく走り回っていたらしい。この寒さの中、孝幸の額には流れる汗があった。「良かった~……、やっと見つけた。無事で良かった」「孝幸、連絡しなくてごめん」「いいんだ。おまえが無事なら」春美は振り返って...

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真夜中に降る雪 11

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高級とは言えない場所へ春美を連れて来たのを、聡一は申し訳ないと口にした。「誘っておきながら、こんな場所ですまないね」春美はかぶりを振った。「いえ……先輩に付いてきたのは自分ですから。あの……話はどこででもできますし……」口ごもってしまった春美を、そっと大切に寝台の上におろす。そして、聡一はそのまま風呂へと向かい、蛇口を捻ると声をかけた。「湯を張るよ。春の足は、強張ってしまっているから、マッサージをする前...

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真夜中に降る雪 12

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ここで泣くわけには行かないと思ったが、春美は、こみ上げる嗚咽を抑えきれなかった。 「……う……っ」「春?どうした?痛むのか?」「い……えっ」 慌てて顔を洗っている振りをしたが、笑おうとして不自然に顔が歪み、聡一に本心を知られてしまった。「うっ……えっ……」「春。泣くな。悪いのは春じゃない」「せん……ぱぃ」「いつも春を泣かしたのは俺だ。わかってるんだ、どれだけ傷つけたか……いまだに春のここは、傷が癒えてなくて、涙で...

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真夜中に降る雪 13

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聡一は愕然としていた。高校を卒業し、大学に入学し、自分の後を追っていると気がついてから、いつか話をしようと思っていた。大人になった今は過去の惨酷な遊びを、若気のいたりだったと謝って、子どもだったんだ、悪かったなと、一笑に伏してしまうつもりだった。それなのに、今も春美は、部室に1人置いて行かれた過去の世界に住んでいる。慕う後輩を残酷に翻弄する、聡一の居る過去に。今となっては、滞った春美の時間を動かし...

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真夜中に降る雪 14

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どのくらいの時間が経ったのだろう。薄く目を開ければ、夜明け前の薄暗い空に、薄い朱色の雲が横たわるのが見えた。視線を流せば、ぼんやりと月明りに照らされた、聡一の顔が目に入る。くっきりと高くしっかりとした鼻梁、出会った時にときめいた変わらぬ端正な顔に、しばしの間、春美は見惚れていた。「先輩。こんな顔してたんだ」いつも聡一の顔を見上げる時は、涙で滲んだ輪郭しか記憶になかった。聡一に抱え込まれるようにして...

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