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Archive: 2015年09月  1/3

Café アヴェク・トワで恋して 8

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直が眠ったのを見届けて、家に帰るはずの松本は、寝顔を見ながらそのまま寝込んでしまった。翌朝。短いアラームの音に飛び起きた松本は、慌てて服を着始めた。「うわっ。やべぇっ!着替えに帰る時間がない、直、悪いっ。すぐ出るから。駅前でタクシー拾うわ。」「あっ。待ってください。」「いや、いくらなんでも、このままじゃあかんだろう。せめて下着くらいは帰って替えないと、店に行けないからな。」「あの……ありますから。店...

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Café アヴェク・トワで恋して 9

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共働きの夫婦のように、caféアヴェク・トワに共に出勤した松本と直は、言葉を失った。カウンターの上に、大量の食材が乱雑に置かれていた。すでに荒木は、下準備に取り掛かっていたが、かなり不機嫌だった。「荒木。」「松本さん。これ見てください。」「どうしたんだ、これ。使えねぇのか?」広げられた食材の肉が変色している。「原因は?」「店に来たら、冷蔵庫の電源が落ちてたんすよ。しかも、ご丁寧に扉が開けられていたから...

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Café アヴェク・トワで恋して 10

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二人が調理に取り掛かったのを見ていた松本は、静かに電話を取り上げた。業務用の冷蔵庫のコンセントは、がっちりとしていて簡単に抜けるはずがない。荒木は口にしなかったが、その不機嫌さから意図的に抜かれたのを知っていると松本は理解していた。もしも、誰かが抜いたのだとしたら、それは店の営業妨害を狙ったのに違いない。考えたくはないが、鍵を直と荒木が持っている以上、普通に考えればどちらかの犯行になる。ありえない...

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Café アヴェク・トワで恋して 11

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尾上に責められている気がしていた。それでも、そういわれても仕方がないと直は思う。「……うん。何も気が付かなかったんだ。鍵をかけるときに、次からは電源もきちんと確認するようにするよ。尾上くんもみんなも心配かけてごめんね。」「直くんが悪いわけじゃないよ。誰にも迷惑なんてかけてないじゃない。荒木さんと二人で、朝早くから頑張ってたんでしょ。ご苦労さまだよ。」「ありがと、由美ちゃん。ボードにランチメニュー書い...

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Café アヴェク・トワで恋して 12

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その日はまるで、caféアヴェク・トワにとって厄日のようだった。ランチ時間が終わりに近づいたころ、妙な三人連れの男が来店した。「ランチ。」「おれも。」「同じものを、くれ。」既に12時を回り、限定20食を超えていた。客には丁重に断るしかない。後、二食分しかランチは用意できなかった。「お客さま。申し訳ございません。ランチは限定20食となっております。どなたかお一人さまは、こちらのセットメニューからお選びい...

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Café アヴェク・トワで恋して 13

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扉のあく音に、直は何気なく顔を向けた。「いらっしゃいま……あ、店長……」引きつっていた直の表情が、松本を見てわかりやすくふっと解けた。反して穏やかな表情だった松本の方が、一人の男が直の手を掴んでいるのを見て、ぴくりと眉根を寄せた。それでも、まだ物腰は丁寧だった。「……うちのスタッフが、なにか失礼なことを致しましたか?」松本が向けた鋭い視線に、男が思わず直の手を放す。僅かに赤くなっているのを目の端でとらえ...

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Café アヴェク・トワで恋して 14

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ぺたりと座り込むと、整髪剤で完璧に整えた頭を床に擦り付けて、彼らは深く謝罪した。「因縁つけて、申し訳ありませんでしたっ。」「許してくださいっ。」腰かけた松本は冷ややかな視線を向けた。何処かで見た光景だなぁと、呑気に考えたりしている。「増本はなんて言ったんだ?」「……許してもらえるまで、帰ってくるなと言われました。すみませんっ。増本さんのお知り合いだとは露ほども知らなかったんで。二度とこんなことはやり...

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Café アヴェク・トワで恋して 15

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松本は厨房に入ると、一人皿を片付けている尾上に声をかけた。「どうした?あっちで皆と一緒に賄い食わねぇのか?」「……いえ。……後でいただきます。」目線を合わせようとしない尾上の、視界にわざと入った松本は正面に立った。「尾上。いいか?一度は大目に見てやる。だが、そう何度も見逃せるほど、俺は大人じゃないからな。次はないと思え。」「……何の話ですか……?」「何の話か、言わなきゃならないか?」蒼白の尾上は、思わず後...

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Café アヴェク・トワで恋して 16

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尾上は事務室でしばらく泣いていたが、やがて顔を上げた。「荒木さん……冷蔵庫の……犯人、俺です。」ソムリエエプロンのポケットから、カチャリと鍵を取り出すと、尾上は静かにカウンターに置いた。「これ……勝手に作った合鍵です……」「そうか。俺も直もロッカーに鍵なぞ掛けないからな。仕事中に抜けて、ホームセンターで作ってきたのか。」「そうです。……直くんを困らせたくて……」「直を困らせたかった?……何だ、お前、松本さんが好...

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Café アヴェク・トワで恋して 17

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一方、松本は苛々と靴音を立てて、あてもなく歩いていた。店が開店して以来、うまくいってたと思っていた人間関係に、いつの間にかひびが入っていたのに気づけなかった自分に腹が立つ。気を付けていたつもりだったが、浮かれた自分が気付かぬうちに直だけを依怙贔屓して、尾上が不快に思う態度をとっていたのかもしれない。元々、無我夢中になると一つの事しか見えなくなるタイプだと、自覚している。だとしたら、罰せられるべきは...

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