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Archive: 2015年06月  1/3

終(つい)の花 62

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普段なら決して拝謁など許されないが、容保は苦労をしている家臣を励ましたいと、周囲が危ないからと止めるのを押して、砲弾の降り注ぐ中を声をかけて回っていた。「苦労を掛ける。」「いいえ。照姫さまとともに、皆で力を合わせております……」炊事場にまで足を運んだ容保に、婦人たちが恐縮する。「勿体ない。このような場所にまで、お出ましになられるとは……」「手を休めずとも良い。そのまま、続けてくれ。」湯気を立てる米は、...

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終(つい)の花 63

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合流した直正と、鉄砲隊の残りの兵も農民の姿に変装し、越後獅子の後ろについて入城していた。「……直さま!ああ、よかった……御無事だったのですね!」「見ていたか?一衛。山川さまの奇策は、痛快だっただろう?」「あい。お見事でございました。それに何より、獅子行列は楽しかった。」被り物をとると、藩士たちは大いに笑った。悲惨な話が多い籠城の中で、唯一の痛快な実話である。後に、山川大蔵の入城を手助けした彼岸獅子は、...

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終(つい)の花 64

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直正はきびきびと指示を飛ばした。「反撃してくるまでが、勝負だ。まずは火縄!弾を込めて、狭間に並べ!」「はいっ!」「……火蓋を切れっ!狙えっ!」「はいっ!」「撃てーっ!」一斉に旧式銃が火を噴いた。篝火に当たって、火の粉が舞い上がったのが見える。「下がれっ!次、ゲベール!火縄、弾込めっ!」「はいっ!」「次は一衛!構えっ!狙えっ!撃てーっ!」「あいっ!」「もう一度!構えっ!狙えっ!撃てーっ!」「あいっ!」...

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終(つい)の花 65

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いくつかの降伏の条件の中には、城外へ降参と大書した白旗を掲げることというのがあった。城中の白木綿は、ほとんどが包帯に使用されたため、集められた白布の小切れを女たちが嗚咽をこらえながら縫い合わせ、一枚の旗にした。掲げられた白旗には「降参」と墨で大書され、取り囲んだ新政府軍は鬨の声を上げた。一衛は涙を滂沱と流しながら、掲げられた白旗を見つめていた。「……まだ、戦えますのに……」「うん。一衛。」「年が足りて...

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終(つい)の花 66

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思わず問い返した。「逃げるのですか?」「そうだよ。」それは、新政府軍の意向に逆らうということなのだろうか。「殿は会津の子供たちに未来を託そうと申された。薩長への恨みもあるが、今は腹の中に呑んで、会津のこれからの道を探りたいと思う。皆が安穏として暮らせる会津のあり方を考えようと、山川さまとも話をした。薩長の作る新しい世の中が、どんなものか見てやろうと思う。腹などいつでも切れる。新しい会津で一衛ととも...

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終(つい)の花 67

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松平容保・喜徳父子は政府軍の軍門に下り、降伏を請う降伏式が行われた。新政府の役人は一段高いところで、椅子に座ってふんぞり返り、敗軍の将は緋毛氈の上に敷かれた粗莚(あらむしろ)の上に直に平伏した。藩士たちは深々と首を垂れる容保の姿に、一様に涙した。武士の命でもある大小も差さず、丸腰で麻裃だけを着けた容保の心中を思うとたまらなかった。容保は恭しく謝罪書を手渡し、重臣たちの嘆願書は萱野権兵衛が持参した。...

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終(つい)の花 68

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降伏式の後、容保は城内に戻り、遺体の投げ込まれた空井戸の前に花を捧げて冥福を祈っている。生き残った藩士は、涙にくれながら去りゆく城主の背中を見つめていた。直正の父は白河で行方不明となり、母も長刀をふるって娘子隊とともに入城したのち、城内で砲弾に吹き飛ばされ井戸で眠る。腐臭の漂う城内で、重臣、藩士たちと別れを告げた容保は、謹慎所となる寺へ向かった。籠城したものは、女性子供も含めて、実に4956人を数...

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終(つい)の花 69

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出てきた名主は、かつて相撲を取ったことのある清助という名の百姓だった。一衛がまだ日新館に入学する前、直正が濁流に呑まれて流されかけたのを助けてくれた男が、名主として二人の前に立っていた。父に言われて、礼の代わりに何度も田畑の手伝いに出向いたことがある二人は、清助の息子たちとも仲良くなったのだった。「お久しぶりでございます。先代に言われて、紙の材料を買い付けに行ったときに、佐々木さまとは久保田のお城...

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終(つい)の花 70 

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穏やかに言葉を選びながら、清助は一衛に話をした。「ただね、どれほど田畑が荒らされても、飢饉になっても、百姓はどんな事をしても年貢を納めなければなりません。会津の殿さまが天子さまをお守りすると決めたとき、どれほどのお金がかかり、百姓が高い年貢に泣いたか、若さまは御存じないでしょう?お武家さまは命がけで会津を守るとおっしゃいますが、百姓にとっては誰が殿さまでもあまり違いはありません。年貢が多いか少ない...

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終(つい)の花 東京編 1

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江戸への旅は、思っていたよりも苦労の連続だった。宿場で泊まろうとしても、会津から来たと名乗れば、場末の飯盛り女さえ態度を変える。「ここはね、あんたたちのような会津っぽが泊まるような旅籠じゃないんだよ。さあ、行ったり行ったり。何処か他をあたるんだね。」「連れの者は、体が丈夫ではないのだ。せめて布団で寝かしてやりたいのだ。金ならある……」差し出した札入れを叩き落として、客を引く女はまくしたてた。「金のあ...

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